( 1 ) ダイバーシティとは?
ダイバーシティ(Diversity)とは、日本語で「多様性」を意味する言葉です。人種、性別、年齢、国籍、宗教、障害の有無、価値観など、さまざまな属性を持つ人々が、組織や社会において共存している状態を示します。 あらゆる属性の共存をめざす概念として国際的に重要視されるようになり、ダイバーシティの概念はビジネスの世界にも浸透するようになりました。
ビジネスでは「ダイバーシティ経営(ダイバーシティマネジメント)」といわれることが多く、多様な人材を受け入れ、個々の能力を活かすことで組織力を高めていく取り組みを意味します。日本でも2000年以降に重視されはじめ、現在ではダイバーシティを経営戦略に掲げる企業が増えています。
ダイバーシティと並んでよく使われる言葉に「インクルージョン(Inclusion)」があります。直訳で「包括・包摂」を意味しますが、ビジネスシーンでは「多様な人々を受け入れ、互いの個性や価値観を尊重し、活躍できる環境」を示します。
多様性の実現をめざすダイバーシティに対し、インクルージョンはその多様性を受け入れ、それぞれの個性を尊重し、能力を発揮できる環境を整備することをめざします。
( 2 ) ダイバーシティが注目される理由
ダイバーシティが注目されるようになった背景には、主に以下の理由が挙げられます。
●市場のグローバル化
グローバル化が加速し、海外市場への進出や外国人の雇用など、多様な価値観を持つ人々との関わりが増えています。ダイバーシティに基づく人材の獲得によって、企業は広範な市場や顧客に対応できるだけでなく、ビジネスチャンスの拡大にもつながります。
●消費者ニーズの多様化
消費者の価値観やライフスタイルが多様化し、市場のニーズに対応できる企業戦略が求められています。ダイバーシティの推進は新たな価値観や視点を生み出すことにつながり、イノベーション創出の可能性を広げることが期待できます。
●人材確保と組織の活性化
少子高齢化や雇用意識の変化などにより、労働人口の減少が社会問題となる中、企業の人材不足も深刻化しています。多様な人材が活躍できる環境は、人材確保だけでなく、社員にも刺激を与え、モチベーション向上や組織の活性化にも効果的です。
( 3 ) ダイバーシティの種類
ダイバーシティの属性には、さまざまな種類が存在します。その一例として、「表層的な属性」と「深層的な属性」の2つの種類を紹介します。
表層的な属性 (外部から判断しやすい属性) |
深層的な属性 (外部から判断しにくい属性) |
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性別、年齢、人種・民族、国籍、身体的特徴、障害の有無 など | 価値観、宗教、スキル・能力、学歴、職歴、ライフスタイル、性的指向、働き方 など |
( 4 ) ダイバーシティを推進するポイントと注意点
ダイバーシティの推進は、企業の成長戦略に欠かせない取り組みです。企業がダイバーシティを推進するための3つのポイントを紹介します。
●組織全体の意識改革
ダイバーシティの推進には、組織全体の意識改革が不可欠です。経営層が率先して取り組みの重要性を発信し、推進する姿勢を示し続けるとともに、役職や現場に応じた研修などによって、従業員がダイバーシティを理解し、多様性を受け入れる意識の醸成が必要です。
●現状把握・目標設定
組織の人員構成について、男女比率や勤続年数、役職など、さまざまな属性から現状を把握し、課題を分析したうえで具体的な目標設定と達成に向けた施策を実施します。定期的に進捗状況を評価し、必要に応じて施策の改善を図ることも重要です。
●制度・環境の整備
多様性を受け入れることがゴールではなく、属性に関わらず誰もが働きやすい環境づくりが必要です。特定の属性に有利な仕組みなどを見直し、フレックス勤務、在宅勤務など、多様で柔軟な働き方を推進することがダイバーシティの定着につながります。
ダイバーシティの推進には、いくつかの注意点があります。
●多様化によるコミュニケーションの混乱
人材や働き方が多様化すると言語や価値観の違いによってコミュニケーションやチームワークに混乱が生じやすくなり、生産性の低下やトラブル、従業員のストレス増加につながることがあります。リスクを軽減するには、ダイバーシティに関する社内教育によって、従業員の意識改革を促すことが必要です。
●無意識の偏見によるハラスメント
無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)は、思い込みなどによって気づかないうちに相手にストレスや疎外感を与え、ハラスメント行為につながる可能性があります。組織全体で従業員同士の理解を促し、「無意識の偏見」を取り除くための取り組みが求められます。
ダイバーシティは短期間で成果が出るものではありません。中長期的な視点による推進体制の構築と継続的な経営戦略に基づいて進めていくことが重要です。