同僚同士、上司と部下、部署間、社内にはさまざまな人間関係があります。こうした社内コミュニケーションを活発にすることは、企業がビジネスを進めていくうえで欠かせないことです。「個々人に任せている」という経営者もおられると思いますが、テレワークが普及している現在、そして今後のことを考えると、できれば社内コミュニケーションを活性化させる取り組みに力を入れておきたいところです。今回は、社内コミュニケーションが活性化することで、どのようなメリットがあるのかを紹介します。
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目次
( 1 ) 社内コミュニケーションの重要性とは
「SPC(サービス・プロフィット・チェーン)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。企業が従業員の満足度を上げることで、サービスの品質が向上し、結果的に顧客の満足度もアップする、そして企業の収益向上につながっていく、という概念です。サービスマーケティングの先駆者であるハーバード大学のヘスケット教授とサッサー教授らが、1994年に提唱しました。
このSPCにもあるように、従業員の満足度を上げるためには、社内コミュニケーションの活性化が重要になってきます。もう少し詳しく解説していきましょう。
情報共有の活発化と生産性の向上
円滑な社内コミュニケーションは、風通しのよい企業風土をもたらします。情報共有や情報交換がスムーズに行われ、チームワークもよくなります。
良好なチームワークは、仕事の生産性向上に関係してきます。みんなが積極的に業務にかかわろうとするムードの中、役割を分担し、お互いの進捗状況を確認し合い、あるいは協力し合いながら仕事を進めていきます。
最近では、部署の垣根を超えて横断的にプロジェクトチームが編成されることも多くなっています。社内コミュニケーションが活性化することで、他部署への理解も進みます。気軽に相談しやすい雰囲気があれば、何げない雑談から思いがけないアイデアや、新しいビジネスの芽がいろいろなところで生まれる可能性があります。
ストレスの軽減と定着率の向上
お互いに意見を言いやすい環境があると、社員のストレスも軽減されます。「こんなことで相手の時間を取っていいのだろうか」などという心理的な抵抗があると、良好な意思疎通はできません。忌憚なく意見交換ができる環境は、同僚同士だけでなく、先輩・後輩、上司・部下など、上下の関係にも必要です。上司にとっても、部下の不満や社内の問題点をいち早くキャッチすることができます。
ストレスが軽減されることによって、社員の定着率の向上にもつながります。「社長のやり方が嫌だ」「同期とうまくいかない」といった人間関係への不満は、離職の最も大きな原因です。悩みがあったとしても、誰かに相談できる環境があれば、簡単に辞めようとは考えないはずです。
顧客満足度の向上と企業収益の向上
例えば、営業と企画開発などの異なる部門がスムーズに連携することで、顧客が何を求めているかといったニーズが、商品やサービスの開発に活かされ、その結果、顧客の満足度は間違いなくアップするはずです。逆に、社内や部門間のコミュニケーションがうまくいかないと、連絡が不十分で細かなミスも起こりやすくなり、それが積み重なれば、顧客の満足度も当然下がっていきます。
顧客満足度が向上すれば、会社の信頼度も上がり、収益がアップします。さらに、企業のブランド力が高まることで社員たちに強い帰属意識も生まれ、コンプライアンスの遵守や情報漏えいなどのトラブル防止にもつながっていく、といった好循環が期待できます。
( 2 ) さまざまな課題を抱える社内コミュニケーション
会社に限らず、何らかの組織に属していれば、「コミュニケーションがうまくいかない」と感じた経験は、誰しも少なからずあるのではないでしょうか。
ここに、社内コミュニケーションにどのような課題があるのか、具体的に示したレポートがあります。社内コミュニケーションの実態を毎年調査している「HR総研」の「社内コミュニケーションに関するアンケート」です。その結果報告によると、「社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になると思うか」という項目で、69%が「大いにそう思う」、25%が「そう思う」となっています。つまり、9割以上の企業が「社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になる」ととらえているのです。
具体的に、どのようなことに支障を感じているか、という調査項目の上位5つを挙げると、
- 迅速な情報共有
- 部署内のチームビルディング
- 部門間・事業所間の連携
- 業務中の気軽な相談・質問
- 目指す方向への認識の統一
となっています。コロナ禍を経てニューノーマルな働き方が浸透する中、障害と感じる項目にも若干の変化が生じています。「部署内のチームビルディング」は昨年の調査から追加された項目で、今年はさらに1つ順位を上げています。また以前は上位に入っていた「精神的ストレスの軽減」が順位を下げるなど、社内コミュニケーションの状況が徐々に変化してきていることが伺えます。
「社内コミュニケーションに課題がある」と感じている企業は、規模にかかわらず約7割になっています。昨年の調査結果から4ポイント減少しており、わずかながら改善がみられます。ただし「社内コミュニケーションに最も課題を感じる関係間」という項目で、大企業では「部署内の課長とメンバー」が、中堅・中小企業では「経営層と社員」が最も多くなっていることから、企業規模に応じて課題もさまざまであることがわかります。
また、これら関係間のコミュニケーション不全によって発生している業務障害として、すべての企業規模で「目指す方向への認識の統一」が半数を超えており、経営方針や事業方針、部署内で達成すべきミッションなど、全社的な情報の浸透改善を最優先で解決したいという結果が出ています。
( 3 ) コミュニケーションが不足する原因と解消策
そもそも、コミュニケーション不足は何が原因で起きてしまうのでしょうか。放っておいても自然と社内コミュニケーションが活発になる状態がもちろん一番よいのですが、そうとはいえない場合には何らかの原因があるはずです。まずはその原因を探ることから始めましょう。例えば、あなたの会社はこんな状態になっていないでしょうか。
- 部門・事業所ごとの縦割り意識が強い
- 経営層と社員があまり顔を合わせることがない
- コミュニケーションを取る場所やチャンスがない
こうした状況を解消するには、どのような対策を取ればいいのか、具体的に見ていきましょう。
〈他部門・他事業所間との連携を深める〉
それぞれの部門が担っている業務を報告し合う場を設ける、部門間を超えて社員が集まる研修を定期的に行う、といった取り組みによって他部門との連携を深めることが大切です。事業所がいくつかある場合は、事業所間を超えた連携も視野に入れて取り組みを進める必要があります。
〈社員の意見を聞くチャンスを設ける〉
特に中堅・中小企業では、経営層と社員の間にコミュニケーションの課題があるといった話は先ほどもしましたが、社員にしてみれば「こちらの意見を言うチャンスがない」ことが不満の種になっているようです。仕事や職場に関するアンケートを社員に実施したうえで社長が一人ひとりと面談を行うなど、経営層と社員が顔を合わせる機会をつくるとよいでしょう。耳を傾ける姿勢を見せること、距離を縮める努力をすることが大切です。また、社内報や共有メールを使って、経営層の方針や意図をしっかりと伝えることも忘れてはなりません。
〈会話が生まれやすい工夫を〉
オフィス内に休憩スペースやミーティングスペースなど、意識的に会話が生まれやすい空間を設けるだけでも効果が期待できます。また、社内交流イベントや部活動もコミュニケーションを促進する絶好の機会です。あるいは会話が生まれやすくなる工夫を、社員からアイデアを募って実践してみるのもよいでしょう。
社内コミュニケーションの状況変化
近年はテレワークが定着してきたことにより、状況の改善やオンラインと対面のすみ分けなどが進んでいます。現在、社内コミュニケーションの手段として多く利用されているものを挙げてみます。
- オンライン会議ツール
- メール
- 対面での会議・ミーティング
- チャットツール
- 対面
大企業や中堅企業では「オンライン会議ツール」などをはじめとするオンラインでのコミュニケーションが主流となっている一方、中小企業ではオンラインを利用しつつも、対面でのコミュニケーションが主流となっています。企業の規模や会社の事情などから、テレワークやオンラインツールの導入が進まないという状況も推測されます。
出典:HR総研「社内コミュニケーションに関するアンケート結果報告」より今後も働き方改革が広まっていくことを考えると、コミュニケーションだけにとどまらずテレワークの推進は中堅・中小企業にとって重要な取り組みと言えます。それを踏まえて、テレワークにおけるコミュニケーション不足を解消する方法を見ていきます。
〈情報共有がスムーズにできるツールの活用〉
離れていてもグループウェアなどを活用して、コミュニケーションを促進することができます。掲示板、ファイル共有、スケジュール管理、ワークフロー、勤怠管理などの機能を通して情報共有がスムーズになれば、お互いの仕事の状況を把握することができるようになります。
〈ビデオチャットやビジネスチャットの導入〉
さまざまなチャットツールを導入することで、一人で仕事をしている不安感や孤独感を払拭することができます。定期的にビデオチャットを使ってミーティングを開くだけでなく、あえて雑談の時間を設けてみたり、ビジネスチャットでさまざまな質問ができるチャンネルを作ったりするのも効果的です。テレワークでも気軽に交流できる雰囲気づくりが大事です。
〈シンプルで使いやすいツールを選定〉
いきなりいろいろなツールを使いこなせといわれても、社員は戸惑ってしまいます。そうしたストレスを軽減するためにも、ツールの選定には慎重になりたいところです。ポイントは、シンプルで誰にとっても使いやすいかどうか。また、事前にテストをするなどして、社員のリテラシーを高めておくことも大切です。
( 4 ) 成功事例と「よく起きる失敗」に学ぶ
では、具体的に社内コミュニケーションを成功させた事例と、反対に活性化させようとしてよく起きてしまう失敗のケースを、いくつか見てみましょう。これらから学ぶことも多いのではないかと思います。
〈成功事例①/情報共有がミスの防止にも〉
ある会社では、これまで顧客からのクレーム情報が社内で共有できていないことが課題だったため、使っていたツールを変更しました。新たな情報共有ツールの導入によって、クレームが発生するとすぐに全員で情報をシェアできるようになりました。これにより、社内コミュニケーションも活発になり、情報管理もしやすくなったため、ミスの防止にもつながりました。
〈成功事例②/会社に一体感が生まれた〉
いくつか事業所を持つある会社では、多くの社員と事業所や部署間でスムーズに情報伝達することに難しさを感じていました。そこで情報共有ツールを活用し、掲示板で情報や価値観を共有することで、部署間の垣根を超えたコミュニケーションが活発になり、製品やサービスの向上につながりました。会社に一体感も生まれ、社員一人ひとりの経験や意見が会社の力になっています。
〈よく起きる失敗①/一部の社員のみが使う〉
社内コミュニケーション活性化の手段として、社内SNSが導入されていることがありますが、うまく活用されていないケースもしばしば見受けられます。多いのは、一部の社員がプライベートな話題ばかりを投稿してしまい、社内全体のコミュニケーション促進になっていないという状態です。
〈よく起きる失敗②/過度の仲間意識がストレスに〉
社内コミュニケーションは大切ですが、やり過ぎは逆効果になる場合もあります。強い強制力が伴えば、プレッシャーを感じてしまう社員もいるため、コミュニケーションツールの導入はあくまで手段の一つと考え、強い仲間意識がストレスにならないよう配慮も必要です。
( 5 ) トータルで企業のDX化を考えることが重要
働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大だけでなく、企業を取り巻く環境は激変しています。それに合わせて顧客のニーズも変わります。それらに柔軟かつ迅速に対応しながら業績を伸ばしていくためには、今一度、足元を見つめ直す必要があります。それが「社内コミュニケーションの重要性」です。
あらためて、社内コミュニケーションが不足することによるリスクをまとめておきましょう。
- 業務効率の低下
- 離職率の上昇
- 顧客満足度の低下
これらは負のスパイラルを形成していきます。そうならないためにも原点に立ち返り、社内コミュニケーションの改善を図るべきではないでしょうか。
セキュリティ対策もセットで
会社によってどのようなコミュニケーションツールを導入するのがよいかは、まちまちです。人数、事業所数など、規模によっても変わってくると思われます。
またテレワークの場合、自宅のパソコンやスマートフォンからも社内ネットワークにアクセスすることを念頭に置かなければなりません。つまり、セキュリティ対策もセットで考えておく必要があります。
ということは、企業のビジネスのあり方を大きく変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)化を視野に入れた取り組みこそが重要です。
- 情報セキュリティ対策
- ワークスタイルの変革
- コミュニケーションツールの活用
この三位一体が、生産性の向上、顧客満足度の向上を実現していきます。
自社にとって何がベストか、判断するのが難しい場合は専門家に相談することをおすすめします。
( 6 ) まとめ
ここまで、企業利益を生み出すために重要な社内コミュニケーションについて、コロナ禍における新たな課題とともに解説してきました。
在宅勤務の普及に合わせて、すでに社内ミーティングや商談でビデオ会議などのITツールを活用している企業は増えています。しかし、相手の状況が見えづらく、気軽なコミュニケーションの醸成が難しいことから、対面に比べてテレワークにデメリットを感じている企業も多いのではないでしょうか。本来、人は言葉だけでなく、表情の変化、声の強弱、身振り手振りなども含めて相手の真意を読み取りながらコミュニケーションを図ります。しかしビデオ会議では、カメラやマイクがオフになっている場合も多く、意思の疎通がうまくいかないなどの問題も顕在化しています。
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