( 1 ) インクルージョンとは?
インクルージョン(Inclusion)とは、日本語で「包括・包摂」を意味する言葉です。ビジネスシーンでは「多様性を尊重し、個々の能力を発揮して活躍できている状態」を示します。
日本では、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが同じ環境で学ぶ「インクルーシブ教育」が普及したことで、インクルージョンの概念が注目されるようになりました。その考え方はやがてビジネス界にも波及し、インクルージョンを導入する企業が増えています。
インクルージョンとダイバーシティの違い
インクルージョンと関連する概念に「ダイバーシティ(Diversity)」があります。
直訳で「多様性」を意味し、「さまざまな属性を持つ人々が、組織や社会において存在する状態」を示します。ダイバーシティだけでは組織力を高めることが難しく、多様性を受け入れたうえで、誰もが働きやすい環境づくりを推進するにはインクルージョンが必要です。そのため、多くの企業が「ダイバーシティ&インクルージョン」を企業理念に掲げています。
( 2 ) インクルージョンが注目される背景
インクルージョンが注目されるようになった背景には、以下の理由が挙げられます。
●働き方の多様化
価値観や働き方の多様化によって、ライフスタイルに合わせた働き方を求める人が増えています。フレックス制など柔軟な働き方を整備することで、従業員満足度の向上が期待できます。
●労働人口の減少
労働人口の減少が進むなか、インクルージョンの推進は企業の人材確保に効果的な取り組みです。多様な人材が集まりやすくなることで、優秀な人材の確保にもつながります。
●市場の多様化・グローバル化
市場環境の変化により、従来の画一的な経営スタイルでは対応が難しくなっています。インクルージョンを通じて多様な視点を取り込むことで、ビジネスに新たな可能性が生まれます。
( 3 ) インクルージョンを導入するメリット
インクルージョンの導入によって期待できる4つのメリットを紹介します。
●優秀な人材の獲得
採用基準を限定せず幅広く受け入れることで、優秀な人材の確保につながります。柔軟な働き方の導入は、育児や介護などで求職を断念していた層へのアプローチにもなります。
●満足度向上による離職率の低下
多様な人材の受け入れや適切な配置によって、従業員のモチベーションアップが期待できます。能力を活かせることで職場への満足度が高まり、離職率の低下にもつながります。
●イノベーション創出と生産性の向上
多様な考え方や視点によって、新しいアイデアや革新的な意見が生まれやすくなります。個性を認め合う環境は従業員の意欲を引き出し、組織全体の生産性も向上します。
●企業のイメージアップ
働き方改革が推進されるなか、インクルージョンを導入する企業は社会的責任を果たしていると評価されます。社会や顧客の信頼獲得に加え、人材採用にも有効です。
( 4 ) インクルージョン導入時のポイント
インクルージョンを導入する際、押さえておくべき3つのポイントを紹介します。
●組織全体の理解度を上げる
インクルージョンは、従業員一人ひとりがその意味と重要性を理解し、行動に移すことが求められます。方針を組織全体に周知し、定期的な研修やワークショップを通じて意識改革を促すことが重要です。
●制度と体制の整備
多様な人材の受け入れや、従業員のワークライフバランスを実現するには、制度の見直しと体制の整備が不可欠です。従来の評価制度で対応が難しい場合、多様性を適切に評価する新たな制度を設ける必要があります。
●具体的な目標設定と進捗管理
インクルージョンの実現には、具体的な目標設定が効果的です。進捗状況や達成状況を定期的に分析し、改善点を明確にしましょう。従業員の意見を積極的に受け入れることで、より効果的な取り組みが可能となります。
( 5 ) インクルージョンの導入事例3選
インクルージョンを長期にわたり推進している企業の導入事例を紹介します。
【CASE:01】大手製菓メーカー
多様な人材が活躍できる環境をめざし、女性の活躍推進や障害者・外国籍・シニア従業員の採用など、さまざまな施策に取り組んでいます。中でも障害者雇用では、得意分野を活かせる職場を開設し、作業場や休憩スペースなどの環境も整備。組織文化としてインクルージョンを根づかせるために、従業員の意識改革を促す研修やイベントを定期開催しています。
【CASE:02】大手外資系IT企業
女性の活躍支援を掲げ、企業風土の改善に努めています。従業員による諮問委員会を発足し、勤務制度の見直しや専門職制度の導入、施設内保育所の開設など、女性が働きやすい環境づくりを推進。従業員自らがキャリア課題を分析し、経営層に提言することで、女性従業員の割合が増え、特に管理職クラスにおけるワーキングマザーの比率が大幅に向上しました。
【CASE:03】大手建材商社
豊富な知識と経験を持つ、シニア世代の活躍支援に力を入れています。希望に応じて定年時期の延長・繰り上げが可能な「選択型定年制度」に加え、個々のライフプランに合わせて働き方が選べる「定年再雇用制度」を導入。特に専門性が高い従業員は雇用上限年齢を撤廃し、継続勤務を可能とする制度を設けるなど、シニア人材のキャリア継続を推進しています。