大切な従業員を守るため
経営者が知っておくべきメンタルヘルスケアの進め方

最近、メンタルヘルスケアという言葉をよく聞くようになりました。多くの企業で「メンタルヘルスケアを実践しよう」と取り組みが行われていますが、そもそもメンタルヘルスとは、そしてメンタルヘルスケアとはどのようなものでしょうか。正しい知識を得て、その必要性を理解してこそ、十分な対策をとることができます。
今回は、経営者が知っておくべきメンタルヘルスケアの進め方について詳しく紹介していきます。大切な従業員を守るために、ぜひ参考にしてください。

( 1 ) メンタルヘルスおよびメンタルヘルスケアとは?

メンタルヘルスとは、直訳すれば「精神面の健康」という意味です。正確にいえば、もう少し広義の意味でとらえ、心の健康状態を問うようなニュアンスを含んでいるといってよいでしょう。心の健康状態は、自分では気づきにくい場合がしばしばあります。知らない間にストレスが溜まって、自分自身をコントロールできなくなる、そんな状態を「メンタルヘルス不調」といいます。

メンタルヘルスおよびメンタルヘルスケアとは?

メンタルヘルス不調は誰にでも起こる

メンタルヘルス不調は、さまざまな心の病気を引き起こします。厚生労働省の「知ることから始めよう みんなのメンタルヘルス総合サイト」では、心の病気の初期サインとして、以下のようなものを挙げています。

  • 気分が沈む、憂うつ
  • 何をするのにも元気が出ない
  • イライラする、怒りっぽい
  • 理由もないのに、不安な気持ちになる
  • 気持ちが落ち着かない
  • 胸がどきどきする、息苦しい
  • 何度も確かめないと気がすまない
  • 周りに誰もいないのに、人の声が聞こえてくる
  • 誰かが自分の悪口を言っている
  • 何も食べたくない、食事がおいしくない
  • なかなか寝つけない、熟睡できない
  • 夜中に何度も目が覚める
参照:厚生労働省「知ることから始めよう みんなのメンタルヘルス」

このようなメンタルヘルス不調は、誰にでも起こるものです。心の病気の初期サインが長く続いたり、日常生活に支障が出てきたりする前に、何とか手を打つことが大切です。もしも放っておくと、以下のような精神疾患につながるおそれもあります。

  • うつ病
  • パニック障害・不安障害
  • 適応障害
  • 睡眠障害
  • 依存症 など

心の問題はとてもデリケートなので、間違った対処方法をとると、かえってダメージを与え、悪化させてしまうことにもなりかねません。そうならないためにも、正しいメンタルヘルスケアが必要になってきます。メンタルヘルスケアとは、すべての働く人が健やかに、生き生きと働けるよう必要なケアを行うことや、そのための仕組みづくりを指しています。

( 2 ) 厚生労働省の定める「メンタルヘルス指針」

厚生労働省では、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針、平成18年3月策定、平成27年11月30日改正)を定め、職場におけるメンタルヘルス対策を推進しています。その基本的考えの中で、以下の3つの予防が円滑に行われることの必要性を示しています。

  • 一次予防/ストレスチェック制度(※1)の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に防止する
  • 二次予防/メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う
  • 三次予防/メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等を行う

推奨される「4つのケア」について

さらに、同指針では、メンタルヘルスケアの取り組みにおいて、以下の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要だとしています。

〈セルフケア〉

労働者に対してセルフケアが行えるよう、教育研修、情報提供などの支援を行います。

  • ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
  • ストレスチェックなどを活用したストレスへの気づき
  • ストレスへの対処

〈ラインによるケア〉

職場のライン上にいる上司が、部下の変化にいち早く気づき、相談対応や職場環境改善などを務めます。

  • 職場環境等の把握と改善
  • 労働者からの相談対応
  • 職場復帰における支援 など

〈事業場内産業保健スタッフ等によるケア〉

事業場内産業保健スタッフ等(※2)は、「セルフケア」「ラインによるケア」が効果的に実施されるよう、労働者に対する支援を行うとともに、心の健康づくり計画の実施において中心的な役割を担います。

  • 具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
  • 個人の健康情報の取扱い
  • 事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
  • 職場復帰における支援 など

〈事業場外資源によるケア〉

メンタルヘルスケアに関する専門的な知識を持つ、さまざまな事業場外資源も活用します。

  • 情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
  • ネットワークの形成
  • 職場復帰における支援 など
参照:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構「職場における心の健康づくり」

※1 ストレスチェック制度:労働安全衛生法第66条の10に基づく心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)及びその結果に基づく面接指導の実施、集団ごとの集計・分析等、事業場における一連の取組全体をいう。
※2 事業場内産業保健スタッフ等:産業医、衛生管理者、保健師、心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ、事業場内メンタルヘルス推進担当者など。

( 3 ) ストレスチェック&ラインによるケアで早期発見

メンタルヘルス指針の一次予防で触れた「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査です。
労働安全衛生法という法律が改正され、労働者が50人以上いる事業所では、2015年12月から毎年1回、すべての労働者(※3)に対してこの検査を実施することが義務づけられました。
まずはストレスチェックを受けることで自らのストレス状況に気づく、そして早期に発見してセルフケアに取り組むことでメンタルヘルス不調を深刻化させないことが、メンタルヘルスケアでは何よりも大切です。
ストレスチェックについては、厚生労働省のまとめた導入マニュアルがあるので、ぜひこちらもご参照ください。

参照:厚生労働省「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」

いつもと違う? 部下の変化に気づこう

最初のほうで述べたように、心の健康状態は自分ではなかなか気づきにくいものです。そこで、セルフケアだけでなくラインによるケアが重要になってきます。
ラインによるケアで大事なのは、上司(管理監督者)が部下(従業員)のちょっとした変化にいち早く気づくことです。自分ではわからなくても、表情や行動に不調のサインが表れている場合もあります。それにはどんなものがあるのか、前項で紹介したメンタルヘルス指針から、いつもと違う部下の様子の具体例を紹介しましょう。

  • 遅刻、早退、欠勤が増える
  • 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
  • 残業、休日出勤が不釣合いに増える
  • 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
  • 業務の結果がなかなかでてこない
  • 報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
  • 表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
  • 不自然な言動が目立つ
  • ミスや事故が目立つ
  • 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする

相談できる制度や窓口の設置も有効

こうした部下の変化に気づくためには、普段から社内の人間関係に関心を持っておくこと、密なコミュニケーションをとっておくことが必要です。そのためのきっかけとして、1on1ミーティングやメンター制度も積極的に活用しましょう。
1on1ミーティングとは、上司と部下が一対一で定期的に話し合う対話のことで、アメリカのシリコンバレー(※4)発祥のマネジメント手法です。また、メンター制度とは、直接の上司ではなく、いわば斜めの関係にある別の部署の先輩などが相談相手になる仕組みです。
このほかにも、従業員が気軽に相談できるカウンセリング窓口を設けることも有効だと思われます。メンタルヘルスの一次予防から三次予防までをシームレスにサポートできる環境を整えておくと、従業員も安心です。

ストレスチェック&ラインによるケアで早期発見

また、企業が従業員に対してストレスマネジメント研修などを通じて正しい情報提供を行うことも大切です。どうして自分がストレスを抱えているのか理由がわかれば、どうすればよいか対応策も見えてきます。
こうして従業員と経営者がともに努力することで、メンタルヘルスケアはよりよいものへとブラッシュアップされていくはずです。

※3 すべての労働者:契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象外。
※4 シリコンバレー:多くのIT企業やグローバル企業が密集する、カリフォルニア州の地域。Google、Apple、Facebookなどが有名。

( 4 ) 企業がメンタルヘルスケアを実践する3つの意義

従業員がメンタルヘルス不調に陥り、十分に働けなくなると、本人にとって辛いだけでなく、職場にとっても大きな損失になります。言い換えれば、企業にとってメンタルヘルスケアに力を入れることは、重要な企業活動の一環でもあります。ここでは視点を変えて、企業がメンタルヘルスケアに取り組む意義とはどのようなものかを見ていきましょう。

〈生産性の低下防止〉

メンタルヘルス不調の状態では、普段なら2~3時間で終わっていた仕事が、1日かかってしまう、あるいは重要な判断ができなくなるなど、従業員の業務遂行能力が落ちてしまいます。これを放置しておくと、遅刻が増え、休みがちになり、やがて離職につながることもあります。メンタルヘルス不調になるのは、もともと仕事熱心な人が多いため、会社にとっても大切な戦力を失うことになります。メンタルヘルスケアに取り組むことで、こうした不調を早期発見できれば、精神疾患の予防や悪化の防止だけでなく、労働力や生産性の低下を防ぐ効果もあります。

〈生産性の向上〉

メンタルヘルスケアは、誰もが健康的で生き生きと働ける職場づくりと相通じる取り組みです。そうすれば、従業員全員の労働生活の質が高まり、モチベーションがアップします。職場のコミュニケーションが活性化し、良好なチームワークのもとで個々のパフォーマンスが存分に発揮できれば、生産性の向上が期待できます。

〈リスクマネジメント/事故防止など〉

メンタルヘルス不調は、集中力や注意力の低下を招き、それが大きなトラブルにつながってしまう危険性も孕んでいます。特に機械の操作や運転をするような場合は、取り返しのつかない事故が起きてしまうおそれもあります。こうしたリスクに対するマネジメントという意味でも、メンタルヘルスケアは重要です。

( 5 ) ストレスチェックからストレスの可視化へ

従来のメンタルヘルスケアの手法としては、先にも触れたストレスチェックを活用するのが一般的です。標準的なものとして、57のチェック項目がある「職業性ストレス簡易調査票」が用いられますが、近年は80のチェック項目がある「新職業性ストレス簡易調査票」も注目されています。
厚生労働省では、ストレスチェック制度が企業において円滑に導入できるよう、「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を無料で配布しています。プログラムをダウンロードすれば、ストレスチェックの受検、ストレスチェックの結果出力、集団分析などを行うことができます。

参照:「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト

ストレスチェックサービスの選び方

社内リソースだけでストレスチェックを実施するのは難しいため、多くの企業では外部のストレスチェックサービスを利用しています。委託先を選定する際には、以下のようなポイントに気をつけておきましょう。

〈効率的に実施できるか〉

用紙だけでなく、パソコンやタブレット、スマートフォンなど、さまざまなデバイスからWeb上で簡単に受検できるサービスであれば、効率的にチェックを行うことができます。

〈実施後のフォローはあるか〉

産業医、カウンセラー、保健師なとの面談の提供、もしくは職場環境の改善に必要なサービスを提供してもらえるなどのフォローがあると、チェック後の対応がスムーズになります。

〈トータル管理できるか〉

ストレスチェックを単独で行うのではなく、健康診断の結果などと合わせて社員の健康管理が一元化できるサービスであれば、社員の心と体の両面からケアすることが可能です。

新たなメンタルヘルスケアサービスの活用

このように、メンタルヘルスケアにとって欠かせないストレスチェックですが、一方で「はたして意味があるのか疑問」などと問題点が指摘されていることも事実です。そこには運用面の難しさと合わせて、従業員側は「回答した内容が業務評価につながってしまうのではないか」といった心配や不安もあるようです。このような不安から、本人が恣意的に回答を操作してしまうと、正しい分析結果が得られない可能性が高まります。また、実施する側も「その日の体調や気分によって回答が変わるのではないか」といった懸念があるようです。
そこで、ストレスをより正確にデータとして「可視化」するため、最近ではデジタル技術を用いたメンタルヘルスケアを導入する企業も増えてきました。例えば、スマートフォンやセンサー付きマウスを使って脈波を測定し、ストレスを定量的に可視化するというサービスも登場しています。もはや働き方が場所を選ばないように、メンタルヘルスケアも場所を選ばず行えるようになってきたのです。

従来のストレスチェックでは、質問項目から得られた検査結果をもとに専門家との面談につなげる手法がとられます。一方、オンラインによるストレスチェックでは、個々にパーソナライズされたアクティビティ(ストレス軽減によいとされる行動やアイテム)をレコメンド、行動変容を促します。こうしてさまざまなサービスを活用することで、従業員のメンタルヘルスケアはよりよいものになっていきます。

( 6 ) まとめ

ここまで、大切な従業員を守るために経営者が知っておくべきメンタルヘルスケアの進め方について解説してきました。適切なメンタルヘルスケアへの取り組みが、企業と従業員の双方にとって幸せをもたらすものであることが、ご理解いただけたのではないかと思います。

自社でもいつかやろう、そのうち改善しようと思っていると、いつの間にか大きな損失や業績悪化につながっているかもしれません。メンタルヘルスケアは、まさに待ったなしの状況といえるため、早めの着手・対応が肝要です。

サクサでは、専用に開発されたセンサー付きマウスにより、従業員の心の健康管理を行うメンタルヘルスケアサービス「cocoem.(ココエム)」を提供することで、ニューノーマルな働き方における企業のメンタルヘルスケアをサポートさせていただきます。ぜひ、お気軽にご相談ください。

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