「働き方改革」という言葉は、すでに社会に浸透していますが、具体的に何をどうすればよいのかよくわからないまま、従来とあまり変わらないやり方を継続している企業も多いのではないでしょうか。今回は、あらためて働き方改革とは何かを解説するとともに、中小企業にできる取り組みの具体例、実際に取り組んでいる中小企業の事例なども紹介します。
今回のお悩み
働き方改革に対する理解を深めたい。働き方改革の具体例を知ることで、どのように取り組めばよいのかを把握したい。
私が解説します!
働き方改革について正しく知り、実践している企業の事例がわかれば、自社に必要な取り組みが見えてきます。他社の事例も参考にしながら、働き方改革を実現しましょう。
目次
( 1 ) 働き方改革とは?
なぜ働き方改革が必要か
働き方改革が叫ばれるようになった背景には、わが国が抱えるさまざまな問題があります。まずは少子高齢化に伴って「生産年齢人口」が減少していることが挙げられます。生産年齢人口とは、社会の生産活動を支える15〜64歳の人口を指し、労働の中心的な担い手であるとともに社会保障を支える存在です。
生産年齢人口は1990年代半ばには減少に転じ、以来その傾向は加速化しています。それだけ企業の労働力不足が深刻化していく時代の流れの中で、企業としては従業員に長時間労働などの負荷をかけることなく、いかに生産性を向上させるかが課題となっています。
多様な働き方ができる社会へ
さらに女性の社会進出が進んだことや、高齢社会の進展などを背景に、育児や介護との両立など働き手のニーズも多様化しています。近年はワーク・ライフ・バランス(※1)の重要性とともに、多様な人材が働きやすい環境をいかに整えるかも、企業にとって重要なテーマになっています。
厚生労働省では、こうした課題解決に向けて、働き方改革がめざすべき姿を「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」と説明しています。
つまり働き方改革とは、従来の労働環境を見直し、それぞれの労働者の事情に応じた多様な働き方を実現するための取り組みです。
( 2 ) 働き方改革関連法とは?
2019年に政府主導による制定
法的な制度として働き方改革が始まったのは、2019年4月のことです。正式名称「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」、通称「働き方改革関連法」が制定され、まずは大企業で適用がスタートしました。中小企業に関しては猶予期間が設けられて2020年4月から施行されました。
とはいえ「働き方改革関連法」は、働き方改革に合わせて新たに作られた法律ではありません。労働に関する既存の法律を改正するもので、それらは以下の8つが該当します。
- 労働基準法
- 労働時間等設定改善法
- 労働安全衛生法
- じん肺法
- パートタイム労働法
- 労働者派遣法
- 労働契約法
- 雇用対策法
働き方改革で実現すべき3本柱
働き方改革関連法が実現をめざすために掲げる「3つの柱」をわかりやすく解説します。
●長時間労働の是正
日本人はそもそも働き過ぎと言われますが、人手が足りなくなると一人当たりの負担が増え、長時間労働が慢性化してしまうことになります。働き方改革は、こうした負のスパイラルを断ち切るためにも必要です。残業を減らし、有給休暇取得率を向上させる取り組みが求められています。
●正規・非正規間の格差解消
正規雇用と非正規雇用の従業員では、待遇や賃金に格差が生じてしまいます。これは長年、日本企業が抱える問題であり、その不平等感を解消する動きが、働き方改革によって高まってきました。雇用形態にかかわらず、公正な待遇を確保することは企業が優秀な人材を確保するうえでも重要です。
●多様で柔軟な働き方の実現
企業にとって人材は大事な「人財」です。育児や介護を理由とした退職は、大きな損失と言えます。そうならないためにも柔軟な環境づくりはもちろん、ジェンダー、年齢、国籍など、さまざまな背景を持つ人たちが働きやすい、多様性への配慮が不可欠と言えるでしょう。
( 3 ) 政府による働き方改革のガイドライン
これまでと何がどう変わったか?
「働き方改革関連法」の施行に伴い、厚生労働省では『働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~』というガイドラインを発表しています。そこでは改革の実現に向けたポイントが、法の変更点とともにまとめられています。
変更点 | ポイント |
---|---|
残業時間の上限を規制 | これまで法律上は残業時間の上限はなかったが、原則として「月45時間・年360時間」に変更され、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない |
勤務間インターバル制度の導入促進 | 一日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)をとることで、従業員の十分な生活時間や睡眠時間を確保する |
年5日の年次有給休暇の取得を義務づけ | これまでは労働者が申し出なければ、年休を取得できなかったが、使用者は労働者に年5日は年次有給休暇を取得させなければならなくなった |
月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ | 残業が月60時間を超える場合は、割増賃金率を50%に引き上げることが定められた(中小企業は従来は25%) |
労働時間の客観的な把握を義務づけ | 健康管理の観点から、すべての人の労働時間の状況を客観的な方法で把握しなければならなくなった |
フレックスタイム制の拡充 | 出退勤時刻を労働者が⾃由に決めることができるフレックスタイム制の対象期間が、これまでの1カ月間から3カ月間に拡充された |
高度プロフェッショナル制度の導入 | 高度かつ専門的な知識を持つなど条件を満たす人には、労働時間に関する規制を撤廃することなどを可能にする制度が導入された |
産業医・産業保健機能の強化 | 労働者の労働時間の把握が義務づけられるとともに、産業医やカウンセラーを積極的に導入し、面接指導を行うなど産業保健機能の強化が求められるようになった |
不合理な待遇の禁止 | 正社員と非正規社員(短時間労働者、派遣労働者、有期雇用労働者など)の間で、給与や賞与などあらゆる待遇に関して不合理な待遇差を設けることが禁止された |
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化 | 正社員との待遇差の内容や理由について、非正規社員は事業主に対して説明を求めることができるようになった(従来は有期雇用労働者に説明義務はなし) |
行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争手続(行政ADR)の規定の整備 | 労働者と事業主との間でトラブルが生じた場合、都道府県労働局が間に入って調整する。これを裁判外紛争手続き、行政ADR(※2)と言う |
( 4 ) 中小企業ができる働き方改革の具体例
まだ遅くない! 5つの取り組み
では、企業としてどのようなことに取り組むべきか、すぐにでも始めるべき5つの具体例を紹介します。
●テレワークの導入
「コロナ禍は終わったのに?」と思う方もいるでしょうが、在宅やコワーキングスペース(※3)など社外で働ける環境を整えることは、多様な働き方とワーク・ライフ・バランスをかなえる第一歩です。ポストコロナの今、オフィスワークとテレワークを組み合わせた働き方「ハイブリッドワーク」も注目されています。
●業務効率化の実施
働き方改革は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)と親和性の高い取り組みです。デジタル化によって業務が効率化されれば、自ずと残業などの問題も解決されます。「いきなりDXはハードルが高い」という中小企業は、フォルダ管理や顧客管理など従業員同士の情報共有といった社内のBPR(※4)から始めましょう。
●勤怠管理の徹底
従業員がどんな働き方をしているかを正しく把握するためには、勤怠管理にITツールを活用することが有効です。例えば、スマートフォンやタブレットを使用し、外出先や在宅でもビジネスチャット(※5)で勤怠管理を行います。
●時短勤務制度の導入
フレックスタイム制は時間をずらして効率的に働く制度で、労働時間の総量は固定されています。時短勤務制度が使えれば、時と場合に応じて従業員はより柔軟に働くことができるようになります。
●メンタルヘルスケアの実施
従業員が安心して快適に働くためには、定期的に面談したりストレスチェックを実施したりすることも有効です。近年はウェルビーイング(※6)という言葉もよく聞くようになりましたが、肉体的・精神的・社会的に満たされてこそ質の高い仕事ができます。
※3 コワーキングスペース:さまざまな人がデスクや椅子、ネットワーク設備などを共有しながら働く場所のこと。※4 BPR:「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」の略。既存の組織や制度を見直し、業務フローや管理の方法、システムなどを変えること。業務改革。
※5 ビジネスチャット:ネットワーク上でリアルタイムにコミュニケーションできるチャットツールの中でも、ビジネス用途に特化したもの。
※6 ウェルビーイング:あらゆる面でその人が「よい状態」を指す。ウェルビーイングが向上することで従業員の意欲や生産性の向上が期待される。
( 5 ) 働き方改革に取り組む中小企業の事例
会社も従業員も幸せになれる働き方改革7選
すでに多くの企業が働き方改革に取り組んでいます。どのような取り組みがどんな効果を上げているか、7つの事例を紹介します。
●紙ベースからデジタル管理へ
ある建設会社では、スマートフォンに勤怠管理アプリを導入し、社外からでも打刻や日報の送信ができるようにしました。従来は紙ベースで記録していたため、現場から必ず帰社しなければなりませんでしたが、アプリの導入によって直帰も可能になり、体を休める時間が多く確保できるようになりました。
●希望やライフスタイルに合わせて
老舗の織物会社では、育児に関して子どもが小学6年生になるまで時短勤務制度が利用でき、さらに介護に関しては利用期限を設けていません。このように従業員の希望やライフスタイルに合わせて勤務形態の見直しを図っています。時短でも集中して業務に取り組むことで、売上がアップしたケースもあります。
●助け合える職場づくりを推進
電子部品や自動車部品を手がけるメーカーでは、家庭も仕事も大切にできるよう助け合える職場づくりを推進しています。家族の急な体調不良、あるいは急な受発注といった事態に誰もが対応できるよう多能工化(※7)を進めることで、男性の育休取得率が約70%と高い数字になっています。
●従業員同士がお互いの仕事を把握
ホームページやポータルサイトの制作を行うIT企業では、テレワークにも早くから対応しています。さらに従業員がそれぞれの仕事量や状況を共有し、仕事が集中している従業員をほかの従業員がサポートできるよう工夫しています。このことが、一人ひとりが余裕をもって仕事に取り組める職場づくりに寄与しています。
●ダイバーシティ経営を実践
英会話スクールを運営する会社では、メーリングリストなどで情報を常に全員で共有しています。チームでの意思決定が必要な場合はチームリーダーを中心に決めますが、多くは個々の裁量に委ねられています。パートタイマーが幹部やリーダーになることも珍しくなく、国籍や性別、年齢を問わずに能力を発揮できるダイバーシティ経営を実践しています。
●柔軟な働き方で業務効率化を図る
オフィスの文具販売や内装デザインを展開する企業では、PCとスマートフォンを使って時間と場所を選ばずに働ける環境を整備しました。また育児中の従業員を対象にテレワークも導入しています。さらに社内にはフリーアドレス(※8)を採用し、柔軟な働き方を進めることで業務の効率アップを図っています。
●自由度の高さが残業時間削減につながった
ブライダル関連事業を手がける会社では、勤務状況を日数でなく時間でとらえ、コアタイム(必ず就業しなければならない時間帯)なしの完全フレックスタイムを導入しました。勤務の途中で「ちょっと抜けてくる」というケースも認め、こうした自由度の高さが結果的には月平均残業時間の20%削減につながりました。
ここに取り上げた事例以外にも、厚生労働省では働き方改革特設サイトを開設して、中小企業の取り組み事例を豊富に紹介しています。みなさんの会社に近い事例も見つかると思いますので、ぜひチェックしてください。
参照:厚生労働省「働き方改革 特設サイト 中小企業の取り組み事例」 ※7 多能工化:一人の従業員が複数の業務に対応できる状態。または複数の業務に対応できるスキルを備えた従業員を育成すること。※8 フリーアドレス:従業員が特定の席を持たず、自由に席を選んで働くスタイルのこと。
( 6 ) まとめ
ここまで、働き方改革とは何かを整理し、実際に取り組んだ企業の事例などを紹介しました。自社でどのように働き方改革に取り組めばよいのか、イメージしていただけたでしょうか。
働き方改革は、これからも加速が予測される人材不足や働き方の多様化に対応するためにも欠かせない取り組みです。また働き方改革に取り組むことで、生産性の向上だけでなく、離職率の低下や採用力の向上、企業イメージのアップなど、さまざまなメリットがあります。
「どこから手をつけていいかわからない」という方には、まずは業務効率化を実現するツールの導入をお勧めします。
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