企業にも従業員にもメリット!
改正育児・介護休業法のポイントを解説(前編)

今回のお悩み
「育児・介護休業法が改正されるが、男性社員の育休取得は義務化されるのだろうか?また、大切な従業員を手放さないために、経営者として何をするべきだろう?

私が解説します!
育児・介護休業法の改正は男性の育休取得を義務化するものではなく、取得しやすくするための改正です。今回は前編・後編の2回にわたって育児・介護休業法の概要や改正ポイント及び育児休業を取得しやすくするための環境整備について詳しく解説していきます!
前編となる今回は、育児・介護休業法の改正の背景やポイントをお伝えします。

( 1 ) 育児・介護休業法とは?

離職することなく家庭と仕事を両立

育児・介護休業法、正式名称「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」は、育児や介護をする人が離職することなく、家庭生活と仕事を両立できるようにサポートする法律です。もともとは1990年代にまでさかのぼりますが、社会情勢に合わせてたびたび改正されてきました。

「育児休業制度」と「介護休業制度」

育児・介護休業法には主に「育児休業制度」と「介護休業制度」の2つの制度があります。育児休業制度は、1歳未満の子どもを持つ従業員が対象です。休業期間は女性の場合、8週間の産後休業が終了した翌日から子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで、男性の場合は子どもの誕生日から1歳の誕生日を迎える前日までのうち申請した期間となります。ただし保育所の入所が決まらないなど特別な事情があれば、最長2歳まで延長できます。

育児・介護休業法とは?

介護休業制度は要介護になった家族の介護をサポートする制度です。休業できる日数は対象家族1人につき93日(土・日・祝も含めてカウント)、それを最大3回に分割して取得することができます。

義務化の対象は個人ではなく企業

今回の改正は、2017年10月以来となります。その中で男性従業員が育休を取得しやすい環境を整備することが義務付けられましたが、誤解のないよう述べておきたいのは、義務化の対象はあくまで企業であり個人ではないことです。男性が育休を取得したいのに、取得しにくいという状況を改善することが大きな目的なのです。
育休を取得するかしないかは、もちろん個人の自由です。大切なのは男女で育児の負担がかたよることなく、仕事と子育ての両立ができる社会の実現です。

( 2 ) 育児・介護休業法改正の背景

伸び悩む男性の育休取得率

先にも少し触れたように、男性は育休の取得がしにくいという状況が続いてきました。厚生労働省が公表した「令和2年度雇用均等基本調査」によると、令和2(2020)年度の事業所調査における育児休業取得率の割合は、以下のようになっています。

育児・介護休業法改正の背景 参照:厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」(事業所調査結果概要)

調査結果にあるとおり、男性の育児休業取得率も徐々に上昇傾向にはあるものの、やっと10%台に乗ったという状況です。女性の取得率が80%台で推移しているのに比べて、あまりに低い水準であることがわかります。

一番の理由は「収入を減らしたくなかった」

厚生労働省の委託事業「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(株式会社日本能率協会総合研究所)によると、育児休業制度を利用しなかった理由として、男性・正社員の回答では以下の3つが上位を占めています。

  • 収入を減らしたくなかったから 41.4%
  • 職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから 27.3%
  • 自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから 21.7%
参照:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」

第1子出産を機に離職する女性が一定数

一方で、出産・育児を機に離職する女性が一定数いるという現実もあります。内閣府男女共同参画局が平成30(2018)年度に調査した「『第1子出産前後の女性の継続就業率』及び出産・育児と女性の就業状況について」の資料によると、第1子出産を機に離職する女性の割合は46.9%(2010~2014年)で、依然として高い状況にあると報告されています。

参照:内閣府男女共同参画局「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び 出産・育児と女性の就業状況について

このような流れに歯止めをかけるためにも、育児・介護休業制度の改正は必要だと考えられてきたのです。

( 3 ) 改正育児・介護休業法のポイント

施行のスケジュール

2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日から段階的に(3回にわたり)施行されます。

施行スケジュール すべての企業 従業員1000人以上の企業
2022年4月1日施行 ①雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化
②有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
2022年10月1日施行 ③産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
④育児休業の分割取得
2023年4月1日施行 ⑤育児休業取得状況の公表の義務化
参照:厚生労働省「育児・介護休業法について」

では、企業として具体的に何をすればよいのでしょうか。
2022年4月1日からは、「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」と「個別の周知・意向確認」が義務化されるようになりました。実施しなければならないことは以下のとおりです。

雇用環境整備 雇用環境整備 以下のいずれかを実施(複数が望ましいとされます)。
①育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口や相談対応者の設置)
③自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
④自社の労働者への育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
個別周知・意向確認 本人または配偶者の妊娠・出産の申し出に対して以下のことをすべて周知、確認。
①育児休業・産後パパ育休に関する制度(制度の内容など)
②育児休業・産後パパ育休の申し出先(例:人事課、総務課など)
③育児休業給付に関すること(例:制度の内容など)
④労働者が育児休業・産後パパ育休期間において負担すべき社会保険料の取り扱い

なお、どちらも産後パパ育休については2022年10月1日から対象となります。

有期雇用労働者の要件緩和

雇用形態にかかわらず、育児・介護休業を取得しやすいよう、有期雇用労働者の要件緩和も行われました。

有期雇用労働者の要件緩和 令和4年4月1日~ 現行
①の要件を撤廃し、②のみに
※無期雇用労働者と同様の取り扱い
(引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は労使協定の締結により除外可)
※育児休業給付についても同様に緩和
(育児休業の場合)
①引き続き雇用された期間が1年以上
②子どもが1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでないこと

産後パパ育休(出生時育児休業)の創設

2022年10月1日からは産後パパ育休(出生時育児休業)が創設され、育児休業制度とは別に取得することができます。

〈対象期間・取得可能日数〉

子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能

〈申出期限〉

原則休業の2週間前まで

〈分割取得〉

分割して2回取得可能(初めにまとめて申し出ることが必要)

〈休業中の就業〉

労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能

また、育児休業制度も表のように変わります。

産後パパ育休
(R4.10.1〜)
育休とは別に取得可能
育児休業制度
(R4.10.1〜)
育児休業制度
(現行)
対象期間
取得可能日数
子の出生後8週間以内
4週間まで取得可能
原則子が1歳
(最長2歳)まで
原則子が1歳
(最長2歳)まで
申出期限 原則休業の2週間前まで 原則1か月前まで 原則1か月前まで
分割取得 分割して2回取得可能
(初めにまとめて申し出ることが必要)
分割して2回取得
可能(取得の際に
それぞれ申出)
原則分割不可
休業中の就業 労使協定を締結している場合に限り、労働者が
合意した範囲で休業中に
就業することが可能
原則就業不可 原則就業不可
1歳以降の延長 育休開始日を
柔軟化
育休開始は1歳、
1歳半の時点に限定
1歳以降の歳取得 特別な事情がある
場合に限り
再取得可能
再取得不可

育児休業の分割取得

従来、育児休業は1回でまとめて取得することを基本としていましたが、改正後は子どもが1歳になるまでの間、育児休業を分割して2回取得することができます。

育児休業取得状況の公表の義務化

従業員数1000人超の企業に対して、育児休業の取得の状況を年に1回、公表することが義務付けられます。公表内容は、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。

参照:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」 参照:厚生労働省「改正育児・介護休業法 対応はお済みですか?」

( 3 ) 前編まとめ

ここまで、育児・介護休業法の概要や改正ポイントについて解説しました。後半では、育児休業を取得した男性社員のリアルな声による育児休業のメリット、そして、育児休業を取得しやすくするための環境整備について解説します。ぜひ後半もご覧ください。

リンク:企業にも従業員にもメリット!改正育児・介護休業法のポイントを解説(後編)はこちら

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