人材確保の有効な手段とは?
国と企業が進める働き方改革におけるポイント

少子高齢化が進み、企業にとっても人材採用の難易度が上がりつつあります。すでに人材不足が大きな悩みの種になっている業界や企業も多く、いかに離職を防ぐかも課題になっています。そうした人材確保の有効な解決策として注目されているのが、働き方改革の促進です。特に、国が進める働き方改革の後押しを受けて普及してきたテレワークは、移動時間の短縮など業務の効率化という側面だけでなく、多様な働き方を叶えることで人材確保にも有効だと考えられています。今回は、そもそも働き方改革とはどのようなものかを押さえておくとともに、テレワークによる働き方改革のポイントとは何かを見ていきます。

( 1 ) なぜ今、働き方改革が必要なのか

まず、そもそもなぜ働き方改革は必要になってきたのでしょうか。それについて考えることは、企業の問題だけに限らず、わが国が抱えているさまざまな問題を浮き彫りにすることにほかなりません。

減少傾向にある「生産年齢人口」

生産年齢人口とは15~64歳までの年齢の人々で、いわゆる「労働力」とみなされる層のことを指します。これは1995年をピークに減少に転じており、少子高齢化に歯止めがかからない状態になっています。また、この層には育児や介護などの諸事情により、離職せざるを得なかったり、復職が難しかったりする立場に立たされている人も多くいます。そこで、生産年齢人口以外の層も含めて、働く意欲のある人たちを労働力としてしっかりと定着させることが重要になってくるのです。

日本は「労働生産性」が低い

労働生産性とは、簡単にいえば「労働者一人当たりが生み出す効果」のことで、国の経済成長にかかわってくるものです。この労働生産性が、日本は先進国の中でも低いといわれています。労働力を増加させることで労働生産性を向上させる、あるいは業務効率化などによって少数精鋭でも成果を上げる、といった体制づくりが欠かせないものになっています。

「長時間労働」という問題

かつて「モーレツ社員」や「企業戦士」という言葉もあったように、日本には長らく「滅私奉公」をよしとする働き方がはびこっていました。つまり、プライベートを犠牲にしてでも会社に尽くすことが美徳とされたのです。その結果、長時間労働が常態化するということになってしまい、それは令和という新しい時代を迎えた今でも完全には解消されていません。長時間労働は、最悪の場合、過労死などの大きな問題につながります。経営層は、従業員が健康的に働き、活躍できる環境づくりに力を入れる必要があります。

今後ますます加速する人手不足

総務省の「国勢調査」によると、2015年の生産年齢人口は7,592万人。それが、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位・死亡中位推計)によると、2030年には6,773万人、2060年には4,418万人にまで減少すると見られています。
あわせて高齢者は定年退職していくため、人材不足はますます加速していきます。そうなると従業員一人ひとりへの負荷が大きくなり、商品やサービスの質の低下などにつながってしまう可能性もあります。帝国データバンクの「人手不足倒産」の動向調査によると、2019年の人手不足倒産は6年連続で最多を更新しています。
こうした深刻化する人手不足を背景に施行されたのが、働き方改革関連法です(大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から)。「一億総活躍社会実現」に向けて、政府は働く人々の労働環境を大きく見直すことを企業に求めています。企業の業績が振るわず、経済が疲弊すると、税収も減少し、国力が低下します。政府としても、国を挙げて働き方改革に取り組む必要があるのです。

( 2 ) 誰もが働きやすい環境づくりの重要性

政府高官や有識者らによって構成された「働き方改革実現会議」は、2017年3月「働き方改革実現計画」とそのためのロードマップを策定しました。そこで示された3つの「働く人の視点に立った課題」と、そこから抽出された9つの「検討テーマ」および対応策を見てみましょう。

働く人の視点に立った課題

処遇の改善(賃金など)

  • 仕事ぶりや能力の評価に納得して、意欲を持って働きたい。

制約の克服(時間・場所など)

  • ワークライフバランス(※1)を確保して、健康に、柔軟に働きたい。
  • 病気治療、子育て・介護などと仕事を、無理なく両立したい。

〈キャリアの構築〉

  • ライフスタイルやライフステージの変化に合わせて、多様な仕事を選択したい。
  • 家庭の経済事情に関わらず、希望する教育を受けたい。

検討テーマ

  1. 1. 非正規雇用の処遇改善
  • 同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備
  • 非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進
  1. 2. 賃金引上げと労働生産性向上
  • 企業への賃上げの働きかけや取引条件改善・生産性向上支援など賃上げしやすい環境の整備
  1. 3. 長時間労働の是正
  • 法改正による時間外労働の上限規制の導入
  • 勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備
  • 健康で働きやすい職場環境の整備
  1. 4. 柔軟な働き方がしやすい環境整備
  • 雇用型テレワークのガイドライン刷新と導入支援
  • 非雇用型テレワークのガイドライン刷新と働き手への支援
  • 副業・兼業の推進に向けたガイドライン策定やモデル就業規則改定などの環境整備
  1. 5. 病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立、障害者就労の促進
  • 治療と仕事の両立に向けたトライアングル型支援などの推進
  • 子育て・介護と仕事の両立支援策の充実・活用促進
  • 障害者等の能力を活かした就労支援の推進
  1. 6. 外国人材の受入れ
  • 外国人材受入れの環境整備
  1. 7. 女性・若者が活躍しやすい環境整備
  • 女性のリカレント教育(※2)など個人の学び直しへの支援や職業訓練などの充実
  • パートタイム女性が就業調整を意識しない環境整備や正社員女性の復職など多様な女性活躍の推進
  • 就職氷河期世代や若者の活躍に向けた支援・環境整備の推進
  1. 8. 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の充実
  • 女性のリカレント教育など個人の学び直しへの支援や職業訓練などの充実(7と共通)
  • 中途採用の拡大に向けた指針策定・受入れ企業支援と職業能力・職場情報の見える化
  • 給付型奨学金の創設など誰にでもチャンスのある教育環境の整備
  1. 9. 高齢者の就業促進
  • 継続雇用延長・定年延長の支援と高齢者のマッチング支援
参照:働き方改革実行計画(概要)平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定

これらのテーマの中でも、特に働き方改革の三本柱といわれるのが以下のものです。

  • 長時間労働の是正
  • 多様な働き方の実現
  • 正規、非正規の格差解消

こうして誰もが働きやすい環境づくりを進めることで、長時間労働による健康問題を是正し、多様な働き方を叶えることで、定着難や採用難を防いで人手不足の解消にもつなげようというわけです。

なぜ今、働き方改革が必要なのか

※1 ワークライフバランス:仕事と生活の調和。仕事とプライベートライフのバランスがとれた状態を指す。
※2 リカレント教育:リカレントは「反復」などの意。リカレント教育とは学び続けながら仕事のスキルアップを図ること。

( 3 ) 働き方改革とテレワーク導入のメリット

働き方改革のメリットは、端的にいえば「労働力の確保」であり、「生産性の向上」です。もちろんこれは企業側から見たメリットです。とはいえ、従業員を大切にする企業であることや、ワークライフバランスのとれた働き方ができることは、従業員の立場から見ても大変なメリットだと思われます。

  • 従業員のモチベーションが上がり、パフォーマンスが向上する
  • 働きやすい環境を整えることでイノベーションの創出にもつながる
  • 新卒・中途採用の志望者にもプラスのイメージを与えることができる

こうして、企業全体としてのブランド力が向上していく「正のスパイラル」による効果は、計り知れないものがあるでしょう。

政府が推奨するテレワーク

ワークライフバランスを叶えるためにも、大いに期待されている手法がテレワークです。厚生労働省のホームページには、そのことが簡潔にまとめられていますので、一部抜粋します。

情報通信技術(ICT)を活用し、時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方であるテレワークは、子育て・介護と仕事の両立の手段となるなどワークライフバランスの実現にするほか、多様な人材の能力発揮が可能となるものです。
(中略)
現在、テレワークの普及促進については政府全体で取り組んでいるところであり、厚生労働省においても、適切な労務管理下におけるテレワークの普及を図るため、労務管理の留意点等を示した「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」の周知など普及促進を図っています。

参照:厚生労働省ホームページ「仕事と生活の調和に関する主な制度」テレワーク普及促進対策より

こうしたテレワークのメリットを、「ワークライフバランス」ではなく、「人材確保」の面からとらえ直してみると、

  • 出勤せずに在宅などで仕事ができる環境が整えられる
  • 子育て・介護などをする社員の支援ができる
  • 多様な働き方を叶えることで離職を防ぐことができる

と、ここでも「正のスパイラル」が生じています。
また、テレワークの導入には国や自治体のさまざまな助成制度もあるので、賢く活用したいところです。代表的なものでは、労働者の人材確保や雇用管理改善等の観点から助成される、国の「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」があります。

( 4 ) 働き方改革の取り組み事例と「これから」

では、働き方改革にいち早く取り組んで効果を上げている大手自動車メーカーの例を紹介しましょう。

〈出社は週に1回、2時間〉

裁量労働制(※3)またはフレックスタイムを導入している事務職および技術職を対象に、独自のテレワークをスタート。勤務場所は原則的に自宅とし、勤務の開始および終了時は上司にメールで通知します。出社は週に1回、2時間以上としています。

〈最大60日まで有休を保有〉

年1回以上、3連休での有給休暇取得を推奨しています。有給休暇の時効は3年で、最大60日まで保有することができます。長期の病気治療や家族の介護に備えることも可能です。

〈育児支援と女性の活躍推進〉

テレワークの対象にならない職場では、子育てをする社員を対象に、子どもの年齢に合わせた時短勤務などの育児支援を行っています。さらに、事業所内託児所も設置。また、育児や介護と仕事を両立する社員を応援する職場風土づくりをめざし、女性の活躍推進を全社的にバックアップしています。

〈優秀な人材確保のために〉

正社員登用制度によって、非正規雇用の従業員にも広く門戸を開いています。また、ダイバーシティ(※4)の促進に向けて、女性技術者の育成基金や、諸事情によって退職した人へのカムバック制度も設けています。

このほか障害者雇用機会の拡充や、心理学専門スタッフによる心身の健康維持など、さまざまな取り組みによって働きやすい職場環境づくりを実践しています。

働き方改革の行方

冒頭でも触れたように、少子高齢化という大きな流れがあり、それに伴う多様な働き方を支える必要がある以上、今後も働き方改革は継続されるでしょう。そこで差をつけることができる企業こそが、生き残っていくことになると予想されます。
一方で、新型コロナウイルスの感染拡大によって、働き方だけでなく、経済全体が大きな変革を求められています。そうした未曽有の事態に備える方法としても、テレワークにはますます注目が集まると考えられます。

※3 労働者の裁量に労働時間が委ねられる労働契約のこと。労働時間を会社から指示されるのではなく、労働者自身が決めることができる。
※4 「多様性」の意。年齢やセクシャリティはもちろん、人種、宗教、考え方など、さまざまな属性の人が集まる状態を指す。

( 5 ) テレワークは人材確保へ向けての大切な第一歩

テレワークを導入することで、多様な働き方の選択肢が広がり、人材確保につながること、ひいては企業の魅力アップに通じていくことは、ご理解いただけたと思います。
しかし、やるべきことはわかったけれど、それを達成する方法がわからない、という方もいることでしょう。

テレワークは人材確保へ向けての大切な第一歩
  • どんなシステムを導入すればよいのか
  • コストはどれだけかかるのか
  • 社員がちゃんと使いこなせるだろうか

など、心配の種は尽きません。
しかし、悩んでいても働き方改革は実現できません。それを成功へと導くためには、いろいろな人の協力が必要です。社内の従業員だけでなく、社外の専門家の力を借りて成し得ることもあります。それでこそ「改革」といえるのです。
確かに求心力のあるリーダーがいれば改革が進めやすいともいえますが、自身がその役を担うほどにはデジタルについて知識がないという経営者の方は、どのようにテレワーク導入を進めるべきか、専門家の意見を仰ぐことから始めてみてはいかがでしょうか。まずは、その専門家が信頼できるかどうか、いろいろな質問を投げかけてみて、

  • 情報セキュリティ対策の伴った安全なテレワーク導入
  • 会社の事情に合わせたベストな提案
  • 誰もが使いやすいツールの選定

といったことに関して納得のいく回答が得られれば、安心して任せることをおすすめします。一方で、テレワークを導入するということは、デジタル化が持つさまざまなリスクにもさらされることを意味します。新しい働き方によって生産性が向上するかどうかだけでなく、情報セキュリティがしっかりしているかどうかも、外部に委託する際のポイントです。
失敗しない働き方改革、そして人材確保への第一歩を、テレワークへの取り組みから始めましょう。

( 6 ) まとめ

政府が進める働き方改革とは何かを概観しながら、その一環であり大きなテーマである「人手不足の解消」に寄与するテレワークの有効性について紹介してきました。働き方改革とは大企業だけの話ではなく、中小企業にとっても重要な経営課題の一つです。はからずもコロナ禍や、副業の解禁といった世の中の流れがそれを後押しし、そのことによって人材不足も顕在化してしまった感があります。
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