業績や生産性に直結!?
職場の心理的安全性の高め方とは

「心理的安全性」という言葉をご存じでしょうか?近年テレワークが浸透するにつれてよく耳にするようになってきた、ビジネスに関する心理学用語です。心理的安全性を高めることは、仕事の業績や生産性に大いにかかわってくると言われています。

今回のお悩み
最近、心理的安全性が重要だという話をよく聞くけれど、具体的にどんなメリットがあるのか?また心理的安全性を高めるためには、どのような取り組みが必要なのだろうか?

私が解説します!
テレワークの普及に伴って注目されている心理的安全性とは何か、心理的安全性が高いとどのような利点があり、低いとどんな弊害が生じるのかを詳しく解説していきます。また、心理的安全性を高めるためのポイントについても紹介します。

( 1 ) 心理的安全性とは?

あなたの職場はどんな状態でしょうか?

従業員から積極的な意見が出てこない、従業員同士の関係がギクシャクしていて職場の雰囲気が悪いと感じており、どうしたものかと頭を抱えるリーダーや経営者は思いのほか多いのではないでしょうか。その要因となっているのは「心理的安全性が低い状態」かもしれません。

心理的安全性(Psychological Safety)を提唱したハーバード大学のエドモンソン教授は、心理的安全性について以下のように定義しています。

「チームにおいて、自分が発言することをほかのメンバーが拒絶したり恥じたり、罰を与えるようなことをしないという確信を持っている状態。対人リスクにおいてチームが安全な場所であるという信念が、メンバー同士で共有されている状態」

もう少し噛み砕いて言えば、例え的外れな意見であっても臆せずに発信できるチームであること、反対意見を述べても非難されないチームであること、個々のメンバーがそう信じられることが大事なのだというわけです。

職場においても「こんなことを言ったら変に思われるかも」「どうせダメだと言われるに決まっている」という思いにとらわれることは「不安」であり「恐怖」です。何でも言い合える、あるいは自分をさらけ出すことができる、そんな良好な関係性が職場で築けてこそ「心理的安全性が高い状態」と言えます。あなたの職場はどのような状態でしょうか?

( 2 ) 心理的安全性がもたらす影響について

心理的安全性が高いことによる効果

心理的安全性が高まれば、対話を通してメンバー同士が協力しながら業務を推進できます。一人ひとりがやりがいを実感し、またチームや会社への愛着を感じながら精神的にも安定して仕事に取り組むことができます。以下のようなことが効果と言えるでしょう。

  • 情報共有・情報交換の円滑化
  • 従業員エンゲージメント(※1)の向上
  • 離職率の低下

例えばクライアントからクレームを受けた場合を考えてみましょう。心理的安全性が低い職場だと、クレームを受けた本人が上司に相談しにくいと一人で抱え込んでしまいます。しかし心理的安全性の高い職場であれば、上司や同僚がチーム全体でカバーすることでクライアントにとってもよい結果になると考えられます。
さらには、その会社の業績・生産性の向上につながり、さまざまな人材が集まりやすい会社になります。多様な価値観が集積することでイノベーションも生まれやすくなります。こうして会社のブランド力は「正」のスパイラルを描きながら向上していきます。

心理的安全性が低いことによる従業員の不安

逆に心理的安全性が低い職場では、従業員は常にストレスを抱えながら働くことになり、これでは自信を持って仕事ができません。従業員の多くがそのような状態では、全体の生産性を下げる結果になっていくでしょう。
先のエドモンソン教授は、心理的安全性の低さからくる不安を4つ挙げています。

〈無知だと思われる不安〉

「こんなこともわからないのか」と思われるのではないかと考えると、知らないことや不明点について聞くことができなくなります。それが対応の遅れやミスにつながるおそれがあります。

〈無能だと思われる不安〉

「こんなこともできないのか」と思われるのではないかと考えると、失敗を隠したりミスを認めなかったりします。大きなトラブルになって初めて問題が顕在化する、というケースもあるでしょう。

〈邪魔をしていると思われる不安〉

「自分の発言は邪魔なのでは」と考えると、なるべく批判されないよう自発的な意見はしないようになります。有意義なアイデアや意見が出る機会が奪われている状態です。

〈ネガティブだと思われる不安〉

「いつも否定的なやつだ」と思われるのではないかと考えると、したほうがいい指摘もためらって控えてしまいます。何の改善も進歩もない組織・チームであり続けます。

改善や進歩がなければ業績は伸びません。そのような会社には人が集まらず、離れていく一方です。「負」のスパイラルを描きながら企業価値は下降していくでしょう。

中小企業も無関係ではない

こうしたことからも、心理的安全性の高い職場をつくることがいかに重要なことであるかが見えてきます。これは決して大企業にだけ当てはまるものではありません。生産性の向上や人材確保という観点で言えば、むしろ中小企業の方が急務ではないでしょうか。従業員同士や上司、経営者との距離が近いからこそ、活発な意見や情報交換による信頼関係の構築が業績や生産性のアップにつながっていきます。

※1 従業員エンゲージメント:会社に対する従業員の信用度、自主的に貢献したいと思う意欲のこと。

( 3 ) 効果的なチームをつくるための5つの要素

Googleの「プロジェクト・アリストテレス」

心理的安全性が注目されるきっかけになったある取り組みを紹介します。Googleが実施したプロジェクト・アリストテレスです。
2012年、Googleのリサーチチームは独自の手法を用いて、効果的なチームの特徴を明らかにするリサーチをスタート。その結果、「誰がチームのメンバーか」ではなく、「どのようにチームが協力しているか」が重要である、ということを突き止めます。そしてチームに影響を与える要素を、重要な順に5つ示しました。

効果的なチームをつくるための5つの要素
チームに影響を与える要素
心理的安全性 チームメンバーがリスクをとることを安全だと感じ、お互いに対して弱い部分もさらけ出すことができる。
相互信頼 チームメンバーが、ほかのメンバーが仕事を高いクオリティーで時間内に仕上げてくれると感じている。
構造と明確さ チームの役割・計画・目標が明確になっている。
仕事の意味 チームメンバーは、仕事が自分にとって意味があると感じている。
インパクト チームメンバーは、自分の仕事について意義があり、よい変化を生むものだと思っている。

Googleでは、この中でも圧倒的に重要なのが心理的安全性であるとしています。リサーチ結果から、心理的安全性の高いチームのメンバーは離職率が低く、ほかのメンバーが発案したアイデアをうまく利用でき、収益性が高く、マネージャーから評価される機会が多い、という特徴を報告しています。

参照:Google re:Work – ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る

リーダーとしてやるべきことは?

心理的安全性を高めるためには、リーダー(またはマネージャー)の役割が重要です。このことはエドモンソン教授の研究でも明らかにされていますが、それをもとにGoogleでは「心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること」として次の5つを挙げています。

心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること
積極的な姿勢を示す 目の前の会話に集中する、メンバーから学ぼうという姿勢を見せる、対話的なコミュニケーションを心がける など
理解していることを示す 話の内容を理解したことを言葉で示す、責めを負わせるような言い方をせず、解決策に焦点を当てる など
対人関係において相手を受け入れる姿勢を示す メンバーのために時間を割き、友好的な態度をとる、貢献に対して感謝の意を示す、親密な関係を築く など
意思決定において相手を受け入れる姿勢を示す メンバーに意見やフィードバックを求める、人の話を妨げない、妨げようとする人がいたらたしなめる など
強情にならない範囲で自信や信念を持つ 意見の対立が個人の対立にならないよう、ディスカッションをコントロールする、自分の意見に対して別の意見がある場合、発言するようメンバーに促す など

こうして心理的安全性を確保することで個々のパフォーマンスが高まれば、会社全体の生産性が向上します。「プロジェクト・アリストテレス」という名称は、アリストテレス(※2)の言葉「全体は部分の総和に勝る」にちなんで付けられたものですが、まさに人は単独で働くより、チームで働くほうが大きな効果を上げられるということの一つの証明になりました。

参照:心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること – Google ドキュメント

※2 アリストテレス:「万学の祖」と呼ばれる古代ギリシャの哲学者。(紀元前384~322年)

( 4 ) 心理的安全性を高めるための施策

では心理的安全性を高めるためにどのようなことに取り組めばよいのか、もう少し具体的な手法について見ていきましょう。

定期的な「1on1ミーティング」の実施

1on1(ワン・オン・ワン)ミーティングとは、リーダーやマネージャーが部下の育成やモチベーション向上を目的として行う個人面談のことです。一対一で週に1回、あるいは月に1回、というふうに定期的に実施します。
面談というとつい部下も構えてしまうでしょうが、1on1ミーティングで大切なのは何でも話せる環境をつくることです。「最近調子はどう?」といった気軽なコミュニケーションが、心理的安全性を高める入り口となります。

ビジネスチャットの活用

多くの人がプライベートではLINEなどのコミュニケーションツールを利用していますが、仕事仲間との連帯を深めるためにもこれらのコミュニケーションツールは有効です。
すでにグループウェア(※3)を活用しているチームや部署もあるでしょうが、グループウェアはどちらかと言えばスケジュールやタスクの管理・共有など、業務効率化が目的。ビジネスチャットはもう少し気軽に、メンバー同士のコミュニケーション促進を目的として使いましょう。普段からの風通しのよいコミュニケーションが、心理的安全性を高めていきます。

評価を「個人」から「チーム」へ

通常は従業員個人を評価の対象としますが、評価指標をチームやプロジェクト単位に変更するというのも有効な手法の一つです。個人評価の場合、「ミスは自分の評価を下げる」と考えるメンバーも出てくるでしょう。しかしチーム評価であれば、大切なのはチーム全体としての業績です。自ずと包み隠すことなく報・連・相が行われ、助け合う精神が醸成されるはずです。さらに失敗しても大丈夫、何でもやってみようというチャレンジングな風土も育まれやすいと言えます。

OKRを導入し、従業員のモチベーションを高める

OKRとは「Objectives and Key Results」、日本語で「目標と成果指標」の意味です。アメリカの企業であるインテルが発祥で、GoogleやMeta(旧Facebook)が導入していることでも知られています。
目標を定めて取り組むということであれば、すでにKPI(重要業績評価指標)やKGI(経営目標達成指標)をご存じかもしれません。しかしOKRは達成よりも従業員のモチベーション保持が狙いです。チーム内の交流が活性化すれば、心理的安全性も向上していきます。

※3 グループウェア:組織内での情報共有やコミュニケーションの円滑化を図り、業務効率化をアップするためのソフトウェア。

( 5 ) テレワークにおいて心理的安全性を確保するには?

テレワーク時は心理的安全性が低い⁉

こうした施策を実施することで心理的安全性を高め、従業員が意欲的に仕事に励むことができるようになれば理想的ですが、ここに一つ新たな問題が出てきました。コロナ禍によって一気に広まったテレワークに関する課題です。
テレワークは多様な働き方を可能にしましたが、一方でテレワーカーの多くが「ストレスを感じている」という意見もあります。お互いの顔が見えないため、チームの議論が活性化せず、連携も弱まっていると感じている方は多いのではないでしょうか。
もちろん会社としてはWeb会議システムなどさまざまなITツールを活用して、社員間のコミュニケーション不足解消に努めているはずです。しかし一人で働いていると以下のような不安がどうしても付きまといます。

  • 自分の言ったことは正しく伝わっているだろうか
  • 相手の言ったことを正しく理解しているだろうか
  • 上司がちゃんと見ていてくれるだろうか
  • いざというとき適切なフォローがあるだろうか

こうした状態は、今回のテーマに沿うと「心理的安全性が低い」と言わざるを得ないでしょう。

リモートでもできるメンタルヘルスケアとは?

経営者として配慮すべきは、ITツールの導入だけではありません。重要なのは、従業員のメンタルヘルス(心の健康)を守ることです。
近年は、テレワークでも従業員のストレスチェックができるツールが登場しています。スマートフォンのアプリやセンサー付きマウスで脈波を測定し、分析データをグラフィカルに表現することでストレスや脳の疲労を定量的に可視化します。さらにストレス軽減によいとされる行動やアイテムを推奨し、それぞれの状態に合わせた行動変容を促すことも可能です。経営者として、テレワークにおいてもメンタルヘルスへの配慮を怠ることなく、従業員の健康状態を把握し、心理的生産性を高めることは非常に重要です。

リンク:大切な従業員を守るため 経営者が知っておくべきメンタルヘルスケアの進め方 – SAXA-DX Navi | サクサグループ

( 6 ) まとめ

ここまで心理的安全性について、そして心理的安全性を高めるための方法について解説してきました。心理的安全性の高さは、会社の業績や生産性に直結します。「負」のスパイラルに陥ることなく「正」のスパイラルで上昇し続けるためにも、従業員のメンタルヘルスに対しての配慮は欠かせません。
サクサのメンタルヘルスサービス「cocoem.(ココエム)」は、スマートフォンやセンサー付きマウスを使って脈波を測定し、ストレスや脳の疲労を定量的に可視化することによって、場所を選ぶことなくストレスチェックができます。また、測定データを可視化することで直接会わなくても従業員の変化に気づけるような仕組みづくりも可能になります。安心して働ける職場づくりのためのメンタルヘルス施策として、ぜひお役立てください。
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