在宅勤務とテレワークの違いとは?
多様な働き方の導入に際して気をつけたいポイント

政府が推進する働き方改革の広がりによって、在宅勤務を導入する企業が増えています。一方で、コロナ禍によるニューノーマルな働き方として、テレワークという言葉が注目されるようになりました。在宅勤務とテレワークは同一視されがちですが、厳密にいえば違うものです。今回は、在宅勤務とテレワークの違いや、新しい働き方について詳しく紹介します。メリットやデメリットを正しく理解することで、企業がこれから進むべき方向性がみえてくるのではないでしょうか。

( 1 ) 在宅勤務とテレワークの違いとは

在宅勤務は、読んで字のごとく「自宅で仕事をすること」です。企業に雇用されながらオフィスに出社することなく、自宅で仕事を行う業務形態を「在宅勤務」と呼びます。

テレワークは在宅勤務より広い概念

「テレワークも同じことじゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、結論からいえばテレワークは在宅勤務より広い概念になります。つまり在宅勤務はテレワークの一種ということです。確かに、会社以外の場所で仕事をするという意味では同じようなイメージを持つかもしれませんが、総務省や厚生労働省によると、テレワークとは「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」です。ちなみにリモートワークもほぼ同義で、遠隔地で仕事をすることを指し、テレワークやリモートワークは大きく次の3つに分けられます。

  • 在宅勤務
  • モバイルワーク
  • サテライトオフィス勤務

2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大を受け、政府は不要不急の外出を避けるよう要請を出し、多くの企業でテレワークの導入が進められてきました。
総務省による「令和3年通信利用動向調査」によると、テレワークを導入している企業の割合は51.9%で半数を超えており、そのうちの91.5%が在宅勤務を導入しています。導入の目的は「新型コロナウイルス感染症への対応」が90%を超え、最も高い結果となっております。

参照:総務省「令和3年通信利用動向調査ポイント」

それぞれの働き方について

先の3つの働き方には、それぞれどのような特色があるのでしょうか。知識として知っておくと、きっと役立つ場面もあるはずです。

〈在宅勤務〉

ひと口に在宅勤務といってもさまざまで、完全にオフィスに出社することなく自宅で仕事をするケースもあれば、週に何回かは出社して、それ以外は自宅で仕事をするケースもあります。また、1日の業務をすべて自宅で行う終日在宅勤務もあれば、会議などで少しだけ出社する部分在宅勤務もあります。このように、多様な働き方を実現する手段として導入されています。

〈モバイルワーク〉

インターネットが利用できる環境さえ整っていれば、どんなところでも仕事ができるのがモバイルワークです。電車や飛行機の中、カフェや飲食店、客先など、働く場所を選びません。似たような働き方に「ノマドワーカー」がありますが、これはフリーランスのような非雇用型テレワークを指す場合が多く、雇用型テレワークとはまた異なります。

〈サテライトオフィス勤務〉

サテライトオフィスとは、リモートワークができるような通信設備を整えたオフィスのことです。自社やグループ企業内で専用のサテライトオフィスやスポットオフィスが設けられており、そこを利用する場合もあります(専用型)。また、レンタルオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースなどを活用する場合もあります(共用型)。

( 2 ) テレワークの今後と企業が取り組むべき課題

テレワークの概念は、働き方改革の浸透によってある程度広まったものの、国内全体の理解としてはまだまだ十分とはいえません。しかし、今後も企業活動を継続していくためには、何らかのテレワークを取り入れなければならないことは明らかです。
国や自治体も、テレワークの導入に要した費用のうち一部を支援する助成金などを用意しています。こうした動きは、今後もますます活発になっていくと予想されます。

育児と両立しながら働ける環境づくり

育児と両立しながら働ける環境づくり

少子高齢化の流れから、労働人口はますます減少しています。これまで通りのやり方を続けていると、企業は事業の継続や規模を維持できなくなる可能性が出てきます。特に中小企業にとって深刻な人材不足を補うためには、テレワークによる仕事の効率化や、多様な働き方を取り入れていくことが効果的です。
また、テレワークを導入すれば、男女を問わず、育児と仕事を両立することができます。そうすればワークライフバランスも充実し、社員のモチベーションも高まります。こうした多様な働き方を支える仕組みづくりこそが、企業にとって取り組むべき課題です。

いざというときでも事業が継続できるように

新型コロナウイルスの世界的な拡大は、誰もが予想しなかった出来事でした。人々は外出自粛を求められ、時間や場所に縛られずに仕事ができるテレワークに注目が集まりました。
さらに近年は、異常気象などによって公共交通がストップし、通勤や移動が困難になるケースも珍しくありません。
このように、いつ何が起きるかわからない現代社会では、いざというときにも事業が継続できる環境を整えておくことが大切です。オフィスに通って仕事をする選択肢しかないのと、自宅をはじめあらゆる場所で仕事ができる環境があるのとでは、リスク回避の面でも大きな差が生じます。

( 3 ) テレワークのメリットとデメリット

働き方のメリットとデメリット

主に経営者の視点から、テレワークのメリットとデメリットについて紹介しましょう。先に挙げた「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」の3つの働き方ごとにメリットとデメリットを挙げてみます。

〈在宅勤務〉

■メリット
通勤の必要がなくなるため、交通費が削減できます。先にも述べたように、育児や介護などを理由とした離職を減らし、優秀な人材に継続して働いてもらうことができるとともに、社員のワークライフバランスも向上します。また、高いスキルがあるものの、フルタイムで働くことができない人材の活用や、今後の副業・兼業時代を見据えた人材雇用にも効果を発揮します。

■デメリット
直接コミュニケーションをとる機会が減ってしまうため、「本当にこれでよいのだろうか」と思いながら仕事をするような状況になってしまいがちです。こうしたデメリットは、モバイルワークとサテライトオフィス勤務でも同様です。

〈モバイルワーク〉

■メリット
移動時間や、ちょっとした空いた時間にも仕事ができるため、とても効率的で、生産性の向上が期待できます。また、客先からオフィスにいちいち戻る必要がなければ、交通費が削減でき、社員自身の移動の負担も軽減できます。

■デメリット
不特定多数の人がいる空間では、情報漏えいなどのリスクも考えられます。また、移動中や外出先で仕事をすることは、モバイルツールの紛失や盗難などの可能性も生じます。

〈サテライトオフィス勤務〉

■メリット
無駄な移動を減らすことができ、生産性を向上させることができます。また、専用型サテライトオフィスを利用する場合は、災害など想定外のことが起こっても、拠点分散による事業の継続性に期待ができます。

■デメリット
共用型サテライトオフィスを利用する場合は、そのスペースを借りるためのコストが別途かかってしまいます。また共用型では当然、情報漏えいのリスクもあります。

「サボり」の問題をどうするか?

もうひとつ、経営者にとって気がかりなのは、テレワークは勤務実態の不透明性が高いことです。プライベートと仕事の線引きが難しく、会社にしてみれば「ちゃんとやっているのだろうか?」「サボっているのではないか?」といった不安は少なからずあり、社員も同様に「残業代は払ってもらえるだろうか?」「正当に評価してもらえるだろうか?」といった疑問を持つ場合もあります。そうした事態を防ぐためには、以下のような取り組みが有効です。

  • 労働時間ではなく成果で評価する「ジョブ型」雇用にする
  • 成果や進捗の報告を義務づける
  • Webカメラを接続して空間を共有する

このほか、ビジネスチャットツールなどを導入することも、コミュニケーション不足の解消に役立ちます。在宅勤務などのテレワークには孤独や不安が付きものです。コミュニケーション不足がやる気を削ぎ、「サボり」につながることもあります。社員の視点に立って「より働きやすい」テレワーク環境を整えることも、経営者としては大事です。

( 4 ) テレワーク導入の成功事例

ここからは、在宅勤務などのテレワークを導入して成功を収めた企業の事例をいくつか見ていきましょう。

優秀な人材も確保できるように

製造業のある会社では、会社が地方にあるため優秀な人材の確保が難しいことや、採用3年程度で約半数が退職してしまうことが課題でした。そこで、子育てを支援し、介護離職を防ぐことなどを目的として在宅勤務を導入。あわせて「育児教育手当制度」を設け、さらに家族手当のうち子どもの手当を増額するなど、子育てしやすい環境を整えました。結果、従業員の満足度は向上し、採用面でも県外から優秀な人材を確保でき、さらには、子育て支援企業としてのブランドイメージもアップしました。

従業員から喜びの声が続々

電気設備の設計・施工を行う会社では、生産性の向上を目的としてテレワークを導入しました。工事部門のスタッフも含めて全従業員が、事業内容にあわせてテレワークを利用しています。スタッフからは「家族と過ごす時間が増えた」「精神的・肉体的な負担が軽減された」「仕事への集中度が増した」といった声が届いています。

上司も部下の生産性向上を実感

人事コンサルなどを手がける会社では、仕事の効率化を図るためにテレワークを導入しました。終日在宅勤務をする働き方と、客先へ直行または客先から直帰する働き方の2パターンを用意。その結果、「対面コミュニケーションによる内容のすり合わせなど会社でしかできないこと」と「自宅でできること」といった時間管理に対する社員の意識が変わりました。また、ほとんどの上司が部下の生産性が向上したことを実感しています。

イメージアップで仕事の依頼増加

ソフトウェア開発を行う会社では、従業員から保育施設の不足や通勤時間の問題などに関する相談を受け、在宅勤務を導入しました。電話・メール・グループウェアなどを駆使することで、問題なく仕事が進められているだけでなく、「働き方改革に積極的に取り組む企業にこそ仕事を頼みたい」と仕事の依頼が増加。さらにマスコミからの取材依頼も増えています。

在宅勤務のデメリットを取り除く工夫も

人材サービスを提供する会社では、業務のほとんどを在宅勤務でできるよう、自由度の高いフレックスタイム制を導入。出社の必要性をなくすことで、オフィスコストの削減や残業の大幅な減少を実現しています。一方で、コミュニケーションの希薄化が問題になったため、カフェ代の支給や、メンバーをランダムに選ぶランダムランチを実施。社員同士のコミュニケーションを円滑にする工夫を行うことで、在宅勤務のデメリットを取り除いています。

( 5 ) 導入に際して気をつけたいポイント

次に、導入にあたって気をつけておきたい3つのポイントを紹介します。

  • 導入に関わるコスト
  • 勤務状況の管理
  • 情報セキュリティ対策

在宅勤務を実現するには、自宅から会社のネットワークに安全にアクセスするための環境整備が必要です。さらに円滑なコミュニケーションを実現するためのツールも必要です。また、経営者としては労務リスク(勤怠管理の徹底)や、セキュリティリスク(情報漏えいやサイバー攻撃対策)もしっかりと考えておきたいところです。それらの導入にどのくらいのコストがかかるのか、まずは専門家に相談することから始めましょう。

自宅にいながらパフォーマンスを向上させるために

自宅のパソコンから社内ネットワークにアクセスするには、安全に接続するためのツール導入が必要です。VPN(※1)やリモートデスクトップ(※2)などの利用によって、パフォーマンスを落とさず、また情報漏洩不正アクセスを防ぐこともできます。

「オフィスにかかってきた電話や、送られてきたファックスはどうなるのか?」といったことも心配無用です。オフィスにかかってきた電話をスマートフォンなどに転送できることはもちろん、オフィスで受信したファックスのデータを自動的にPDF化し、自宅のパソコンやスマートフォンに転送することも可能です。さらにビジネスチャットを使えば、離れた場所にいる社員同士がパソコンやスマートフォンを通して綿密にコミュニケーションをとることもできます。

また、勤怠管理クラウドシステムを利用することで、部下からの状況報告と上司によるチェックが双方向でスムーズにできます。加えて、ログを記録する機能によって社員が勤務時間中にどんな作業を行っているかをグラフで確認することもできるため、安心して業務を任せられます。

これらが複合的に機能することで、自宅にいながらパフォーマンスを落とすことなく、質の高い仕事を実現することができます。もちろん、自分たちだけでベストなテレワーク環境を構築することは難しいため、最適な提案をしてくれる専門家を選ぶことも大切です。

※1  VPN:インターネット上に設置する仮想のネットワークを指し、特定の利用者だけが使用できるため安全性が高いとされる。
※2  リモートデスクトップ:自宅のパソコンやモバイル端末などから、社内のパソコンに接続し、デスクトップ画面を遠隔操作できる技術。

( 6 ) まとめ

ここまで、在宅勤務とテレワークの違いなどを中心としながら、メリットやデメリットについて紹介してきました。最後に、あらためてテレワークのメリットを総括しておきましょう。

多様な働き方を希望する社員を、持続的に雇用できる
  • 多様な働き方を希望する社員を、持続的に雇用できる
  • 感染症対策や自然災害などで、出社ができない状況でも業務に影響が出にくい
  • 社員の満足度向上、生産性の向上など、会社にとってのメリットも大きい

こうして振り返ってみてもよくわかるように、優秀な働き手を確保しながら、さらに生産性も上げていくためには、テレワークの導入は不可欠です。

「わが社はもうテレワークを実践している」という経営者の方も多いかと思いますが、しかし今一度考えてみてください。コロナ禍によって急ピッチに進められたテレワークの導入は、「とりあえず」の域を出ず、不完全な形であることも少なくありません。本当に現状のままで問題はないのか。在宅勤務を可能にするツールをはじめ、インターネット環境などの情報セキュリティに脆弱性はないのか。あらためて見直してみることが大事です。

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