テレワークにおける人材育成の課題と対策とは?
ニューノーマル時代の社員教育を解説

企業にとって人材育成の重要性が叫ばれる中、テレワークなどニューノーマルな働き方が進み、社員教育をどのように行えばよいのか、悩んでいる経営者も多いと思います。例えば、対面ではスムーズにできていた部下や後輩に対しての指導も、オンラインとなると良好なコミュニケーションが取りづらく、多くの企業が苦戦しているようです。しかし、テレワークが今後も働き方のひとつの選択肢として定着していくことを考えると、そうした課題をそのままにしておくのではなく、何らかの対策を講じる必要があります。そこで今回は、テレワークで人材育成を行ううえでのポイントや方法について紹介します。

( 1 ) 人材育成の中でも重要視されるOJT

人材育成にはさまざまな手法があります。ビジネスパーソンならある程度ご存じだと思いますが、まずはそれぞれの手法を正しく知ることから始めましょう。

多様化する人材育成の手法

最も多くの企業で取り入れられているのがOJTです。これは「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」の略で、先輩や上司が後輩に対して、現場での日常業務を通して知識・技術を指導する教育方法のことです。新卒・中途にかかわらず、新人の成長には指導者のアドバイスが大きな役割を果たします。
また、OJTとよく対比される人材育成の手法に、「メンター制度」があります。メンターとは「助言者」の意味で、新人に対して年齢の近い先輩がさまざまな助言を行う制度のことです。OJTでは同じ部署の先輩が指導を行いますが、メンター制度では業務上の利害関係がない(少ない)別の部署の先輩が助言を行います。このつながりは「斜めの関係」と呼ばれています。
さらに、OJTに対してOff-JTと呼ばれる手法もあります。これは「オフ・ザ・ジョブ・トレーニング」の略で、現場から離れ、研修やグループワークを通して知識やスキルを学ぶ手法です。OJTが「実地」なら、Off-JTは「座学」といえるでしょう。
近年、労働人口の減少に伴う人材の確保は企業の課題ですが、上司と部下のコミュニケーション不足は従業員の離職に繋がる場合があります。そのため、上司と部下が対話を重ねるコミュニケーション手法が注目されています。上司と部下が定期的に対話型のコミュニケーションを通して互いの心情を理解し、業務の円滑化を図る「1on1ミーティング」や、コーチ役が部下の声に耳を傾けることで能力や可能性を最大限に引き出しながら、目標達成に向けてモチベーションを高める「コーチング」が主な例です。

OJTのメリット

先にも触れたように、この中で多くの企業が重要視しているのがOJTです。その理由は、OJTが持つ以下のようなメリットのためだと考えられます。

〈人間関係が築きやすい〉

OJTでは、わからないことがあればすぐに質問や相談ができるなど、新人にとってコミュニケーションを取りやすい環境が提供されます。

〈直接観察ができる〉

指導者の立場から見ても、新人が働いている状況を直接観察できることは大きなメリットです。ちょっとした表情や素振りなどから、悩みや困り事をすぐに把握し、声掛けや適切なアドバイスをすることができます。

〈見て、真似て、覚える〉

OJTの最大のメリットともいえるのが、先輩のやり方を近くで見て、真似ることで、仕事を覚えていくというサイクルが構築できることです。一般的な仕事内容だけでなく、顧客に対する臨機応変な対応、細かな配慮といったビジネスのコツも「盗む」ことができます。

( 2 ) テレワーク時代の人材育成の課題

コロナ禍によって、私たちの働き方は大きく変わりました。それは人材育成についてもいえます。対面によるOJTが難しくなった分、いろいろな課題が出てきました。

対面指導が難しくなったニューノーマル時代の課題

テレワークにおけるOJTの課題

在宅勤務などのテレワークでは、企業はそれぞれ、Web会議ツールなどを活用して社員間のコミュニケーションを図っています。しかし、OJTに関してはまだ人間関係が浅いこともあり、お互いの人となりが見えづらく、新人は仕事を理解するまでに時間がかかってしまうという傾向があります。

〈コミュニケーションが足りない(人間関係が構築できない)〉

例えば、隣に座ってパソコンの画面を見てもらう、といったシチュエーションも対面ならすぐに作ることができますが、オンラインではなかなかそうもいきません。また、対面ならお昼時間に一緒にランチをとる、仕事終わりに食事に行くなど、業務を離れた部分も含めて人間関係を築くことができました。

〈相手の表情や仕草がわからない(状況の正確な把握ができない)〉

対面なら相手の表情や仕草、態度を観察することで、今どんな状況であるかを把握することができます。自然と会話の量も増え、偶発的な話題の中から「今こんなことに悩んでいるんだな」ということを察することもできます。しかし、これもまたオンラインでは気づきにくくなってしまいました。

〈仕事に早く習熟できない(モチベーションの維持が難しい)〉

本来、先輩のやり方を真似ながら、成功体験を積むことで、新人は仕事に面白さを感じるようになります。これがオンラインではやはり難しくなってきました。そうなると仕事にやりがいを感じられず、離職に至ることもあるでしょう。OJTは新人のモチベーション維持にも大きくかかわっているのです。

「今、声を掛けても大丈夫?」

こうした課題の根底には、「遠慮」というものも大きく影響していると考えられます。対面でもすぐに良好な関係が築けるわけではありませんが、これが非対面(オンライン)となればなおさらです。
オンラインでは、新人が先輩に声を掛けるタイミングを計りかねるということが、しばしば起きてしまいます。聞きたいことがあっても、「今、声を掛けてもいいだろうか」とか「相手は忙しいのではないか」などと、つい気兼ねをしてしまうのです。
先輩にしてみれば、「遠慮せずに聞いてくればいいのに」と思うかもしれませんが、新人としては、やはり気をつかわずにはいられません。その緊張を解きほぐすためには、指導する先輩側が自己紹介はもちろん、時事ネタや趣味の話題など「アイスブレイク」を通して新人の緊張を和らげることで、「この人なら気軽に話しかけられそう」という雰囲気づくりができるはずです。

( 3 ) テレワークでの人材育成のポイント

オンラインを使ったOJTなどの人材育成では、どのようなことに気をつければよいのか、ポイントを見ていきます。

〈定期的なコミュニケーションを大切に〉

人と密接にかかわることを前提としていた対面のOJTに比べて、オンラインのOJTだとコミュニケーションを取る頻度は確かに減ってしまいます。でも、これからは「質の向上」をめざして、定期的な対話の機会を設けることを心がけましょう。例えば、毎日同じ時間に必ず対話の場を持つ、週に何回かは長めのミーティングを行う、などの工夫が必要です。

〈言語化することを心がける〉

「雰囲気で伝える」とか「空気を読んでほしい」といったことはオンラインでは難しいため、伝えたいことや大切な情報は、きちんと言語化することをルールとして決めておくとよいでしょう。新人にとってはモヤモヤした思いを言葉にするのは簡単ではありませんが、長い目で見るとこれも一種のトレーニングになります。

〈評価項目を決めておく〉

何も基準を設けずに漠然と指導を行うと、新人は何をめざせばよいのかわからず、やる気が削がれてしまいます。新人に期待することや、何をもって達成できたとするのか、あるいは1年後にどのような人材になっていてほしいのか。そうした評価項目や育成ビジョンを明確にしたうえで、本人のモチベーションを高めながら指導を行うことが大事です。

リモートとリアルのハイブリッド型という柔軟性

もちろん、オンラインでできることには限界があります。従来、対面で行ってきたことをすべてオンラインに移行するのは至難の業です。しかし、そのうちの何割かはオンラインで代行できるため、以下のことをまずは整理しておくことをおすすめします。

  • リモート(オンライン)でも十分なこと
  • リアル(対面)でやった方がいいこと
  • リアル(対面)でしかできないこと

そのうえで、自社に合ったやり方を構築していく、というやり方がスマートでしょう。つまり、これからはリモートとリアルを上手に使い分けたハイブリッド型の柔軟な人材育成が重要になってくると思われます。

( 4 ) 人材育成でオンラインをもっと活用するためのヒント

オンラインを活用した人材育成の事例として、さらにいくつかを挙げておきましょう。ぜひ、新しい方法を模索する際のヒントにしてください。

人材育成でオンラインをもっと活用するためのヒント

〈テレワークでも雑談は必要〉

社内にもリフレッシュルームがあるように、ちょっとした息抜きの場は、テレワークでも必要です。むしろ、在宅勤務で誰とも会うことなく仕事をしていると、出勤するよりストレスが溜まってしまうかもしれません。本来は仕事で使っているWeb会議ツールも、たまには「雑談」に活用してみましょう。

〈複数によるサポート〉

これは対面のOJTでも起きることですが、先輩社員との相性が合わない場合、新人は人間関係に悩まされることになります。そこで、複数の担当者でサポートすることで、新人が抱える悩みや不安を見過ごさないようにすることができます。
また、先輩社員にとっても、一人で指導するのは負担が大きいものです。一人ひとりの指導担当は決めつつ、それを統括するリーダーを設けておくことも有効でしょう。

〈e-ラーニングの活用〉

e-ラーニングとは、インターネットを活用した学習のことで、多くの企業や学校で取り入れられています。時間や場所を選ばずに受講でき、何度でも繰り返し学べることなどが特徴です。この繰り返し学習は、オンラインによる人材育成のメリットといえます。

誰のための人材育成なのか、を考える

自社に合った適切な人材育成のあり方を模索するためには、今一度、人材育成とは誰のためのものかを問い直してみる必要もあります。

  • 社員にどうなってほしいのか
  • 会社としてどうなっていきたいのか

こうした本来の目的とじっくり向き合うことで、効果的な手法を選択することができるようになるでしょう。目的が明確ではない人材育成は、不思議なことに効果が上がらないものです。指導を受ける側にとっても、時間の無駄ということになりかねません。会社と社員、双方にとって魅力ある人材育成とは何か、あらためて考えてみましょう。
また、優れた人材育成は、先輩や上司にも絶好の学びの機会となります。後輩を指導することで「自分も学ぶことがたくさんある」とは、よく聞くビジネスパーソンの声です。多くの社員が、新たな気づきを得ながらキャリアアップをめざして頑張る。そんな会社には、きっと明るい未来が待っています。

( 5 ) テレワークでの人材育成事例

テレワークで実際に人材育成を行っている企業の事例を紹介します。テレワークでの人材育成に不安がある方や、導入したいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。

【事例1】 オンライン上での交流を図る

クラウドサービスの企画・開発・販売を行う企業では、新入社員の入社後にオンラインを活用した質問会などの「交流の場」をつくり、社員の参加を促しています。リモートワークの課題や、改善策といった現場の声を聞く機会を設け、社員のモチベーションアップを図っています。

【事例2】複数のミーティングで環境づくり

ECサイトの開発・運営を行う企業では、新入社員とコミュニケーションする機会を増やすため、複数のオンラインミーティングを行っています。新入社員の要望や課題を解決する1対1でのミーティング、月1回のフレームワークによるチームミーティングなど、メンバーや人数、頻度、時間を変えて実施し、気軽に相談できる環境づくりを整えています。

【事例3】オンライン交流アプリの活用

オンラインコンテンツを提供する企業では、新入社員と既存社員の交流を目的として、オンライン交流アプリを導入しています。アプリ上でメンバー同士の理解を深めるワークショップやプログラムなどを行うことで、テレワーク下の交流を促進しています。

( 6 ) 大切なのはルール作りとツール選び

オンラインでの人材育成を可能にするためには、「ルールを作ること」と「ツールを選ぶこと」が欠かせません。このふたつは、今後のコミュニケーションの質を左右する、重要なテーマです。

わかりやすいルールを作る

「テレワークを中心とした人材育成のポイント」のところでも述べましたが、どのように社員を評価するかなどをルールとして設定し、指導する側にもされる側にも周知しておく必要があります。
人事評価の手法としては、ピーター・F・ドラッカー(※1)の提唱した「MBO(目標管理制度)」がよく知られています。部下が上司とすり合わせて目標を掲げ、その後、目標達成に対して双方で評価を行うという手法です。MBOでは達成すべき目標と評価がはっきりしているため、テレワークにおける評価軸としては適しています。
もちろん、段階に応じた目標を設定することが大切です。いきなりレベルの高い目標を掲げると、新人は自信をなくしてしまいます。逆に、簡単な目標だと成長を実感しづらくなります。その人の習熟度に合わせた適切な目標設定というのは、実はなかなか難しいものです。そのためにも、お互いをしっかり理解できるコミュニケーションが欠かせないのです。

使いやすいツールを選ぶ

ルール作りとあわせて、ツールの選定も大切です。ツールにはWeb会議ツール、ビジネスチャットツール、オンライン日報、グループウェア(※2)など、さまざまなものがあります。上司や指導する立場としては、

  • コミュニケーションツールを適切に使い分けたい
  • リモートでも対面と変わらぬ意思疎通を図りたい
  • リモートでも社員のさまざまな状況を把握したい

と考えるでしょう。これはそのままツールを見極める際のポイントにもなります。さらに付け加えるなら、

  • 情報漏洩のリスクが低い
  • 勤怠管理がしやすい

という視点も、経営者としては持っておきたいところです。そのうえで、以下のようなスパイラルアップをめざすことが大切です。

  • 社員間コミュニケーションの活性化
  • テレワークにおける社員満足度の向上
  • 生産性向上による企業力の強化

そこで、ツール選びは信頼できるベンダーを見極めることから始めましょう。いきなり自分でツールを選ぼうとしても、専門知識を持っていなければ適切な判断ができません。その点、安心して任せられるスペシャリストがビジネスパートナーにいれば、そうした手間から解放されるだけでなく、先に挙げたスパイラルアップの効果を最大限のものにしていくことができます。

※1 ピーター・F・ドラッカー:自らを「社会生態学者」と称した、「知の巨人」であり「マネジメントの父」。1909年オーストリア・ウィーンに生まれ、2005年アメリカ合衆国カリフォルニア州に没した。
※2 グループウェア:情報共有やコミュニケーションを活発化させるソフトウェア。チャット、掲示板、スケジュール、ワークフロー、共有ファイルなど、さまざまな機能がある。

( 7 ) まとめ

ここまで、テレワークにおける人材育成の課題と対策について紹介してきました。人材育成のゴールをひと言でいえば、社員が「できる」ようになることです。そのためには、対面であれリモートであれ、問題はないと思われます。どちらにウエイトを置いた内容にするか、バランスを考慮しながら自社に合ったベストな道を探っていくことが重要です。
私たちサクサは、こうした次世代のコミュニケーション活用を提案するスペシャリストです。対面なら可能な目配せ、表情、仕草など、コミュニケーションに必須の情報伝達が足りていないために、テレワークにデメリットを感じている経営者もおられるでしょう。私たちはそうしたコミュニケーション問題を解決し、生産性を向上させる組織コミュニケーション環境を提供いたします。また、「SAXA-DXサービスプラットフォーム」により、新たなサービスも提供してまいります。更に、テレワーク下でも従業員の心身の状態を見える化し、行動変容を促す「メンタルヘルスケアサービスcocoem.(ココエム)」もご提案しています。
ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

経営課題におけるトレンド情報や課題解決にお役立ていただける資料をまとめております。
ぜひ一度お読みください。

お役立ち資料一覧はこちら