近年、企業活動のデジタル化に伴い、機密情報や個人情報を狙うサイバー攻撃は増加の一途をたどっており、企業、個人の隔てなく、日ごろから適切なリスクマネジメントを徹底する必要があります。今回は情報セキュリティ対策の基本から、企業・個人における具体的な情報セキュリティ対策を一覧で紹介。さらに経営者として押さえておきたい費用や有効なツールについても解説します。
目次
( 1 ) 情報セキュリティ対策とは
「情報セキュリティ対策」とは、サイバー攻撃による不正アクセスやウイルス感染などのリスクから、ネットワークやシステムに加え、保有する情報資産を保護するための取り組みのことです。
IT化やデジタル化が進み、インターネットの使用が日常的になっている現代では、利便性によるメリットを得られる一方でさまざまなリスクにさらされています。特にスマートフォンの急速な普及により、ビジネスだけでなく個人レベルでもトラブルや被害にあうケースが見られます。
メールやWebサイトを悪用したサイバー攻撃は企業だけでなく、個人もターゲットとなっている昨今、情報セキュリティにおける対策の強化が必要です。
情報セキュリティにおける3大要素とは
情報セキュリティは「機密性(confidentiality)」「完全性(integrity)」「可用性(availability)」の3つを確保することと定義されています。これらは情報セキュリティ3大要素といい、それぞれの頭文字をとって「CIA」とも呼ばれます。
- 機密性
正当な権利を持つ者だけが情報にアクセスできる状態を維持すること。
- 完全性
情報が他者によって改ざんされることなく情報が保持されること。
- 可用性
必要なときにいつでも情報が使用できる状態であること。
( 2 ) 情報セキュリティ対策の重要性
現代社会では、さまざまなリスクを想定するうえで「情報」をいかに取り扱うかが重要な問題です。特に企業では、情報はお金や人材などと同様に重要な価値を持つ「資産」です。適切な情報セキュリティ対策をとっておらず、情報セキュリティ事故が発生した場合、以下のような被害を受けることが考えられます。
- システム停止によるビジネスの機会損失
- 信頼・ブランドイメージの失墜
- 賠償金など経営責任や法的責任の発生
自社のみならず、取引先や社会に与える損害も大きなものになることが予想されます。
また、改正個人情報保護法の施行により、情報漏洩発生時の報告が義務化されました。これによりコンプライアンス違反に対する罰則が強化されてきているなど、情報セキュリティ対策の必要性がますます高まっています。
自社の情報資産を守り、継続して安定した業務を行うこと、さらには企業のブランドや信用を保つために、情報セキュリティ対策は重要な課題であると言えるでしょう。
( 3 ) 企業ができる情報セキュリティ対策の具体例6選
企業は規模の大小にかかわらず常にサイバー攻撃などの危険にさらされています。企業における主な情報セキュリティ対策として、以下の6点が挙げられます。
企業ができる情報セキュリティ対策の具体例6選 |
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それぞれの対策例について詳しく紹介します。
●ID・パスワードなどのアカウント管理を徹底する
最も基本的な対策として、ID・パスワードなどのアカウント管理が挙げられます。正しく管理が行われていないと不正アクセスや情報漏洩のリスクが高くなるだけでなく、業務にも支障が出てしまいます。パスワードは推測されにくい文字列にし、同じものを使い回すことは避けましょう。また、退職者のアカウントは不正に使用されないよう、速やかに削除や無効化を行います。
●適切なアクセス制限を設定する
システムやデータへのアクセスを部署や役職などによって制限する、または特定の従業員に権限を付与するなどの設定を行います。機密情報や個人情報などは外部からの侵入によって窃取されるケースだけでなく、内部から不正に持ち出されるケースも考えられます。情報に対して閲覧、変更や保存に関しても設定を行うことで、情報漏洩のリスクを防ぐことができます。
●ソフトウェアを常にアップデートする
ソフトウェアは不具合や脆弱性を解消するための更新が定期的に行われています。メーカーなどから更新が通知されるので、すぐにアップデートを行いましょう。更新せずに使い続けていると脆弱性を突いた攻撃を受けるリスクが高くなります。自社が被害を受けるだけでなく、「踏み台」として利用され、取引先にも被害が拡大するケースもあるため、更新作業は漏れのないよう周知することも重要です。
●適切なツールを導入する
ネットワークを監視し、不正アクセスなどを防止するセキュリティ機器や、ウイルス感染を感知・ブロックするセキュリティソフトの導入が有効です。近年の情報セキュリティリスクの多くはネットワークを介して行われており、外部からの攻撃に対するセキュリティ強化や、早急な被害検知と拡大防止が求められます。自社のセキュリティ状況を把握し、対策ツールを導入することでセキュアな環境の構築が可能となります。
●テレワークなどの運用ルールを策定する
社外や自宅などで業務を行う際のデバイスの取り扱いや、社内ネットワークへのアクセスには注意が必要です。強固なセキュリティに守られた社内とは異なり、外部にはさまざまなリスクが潜んでいます。PCなどの持ち出しは事前申請を行う、個人所有のデバイスは許可されたもののみを使用するなどの運用ルールを策定し、社内にアクセスする場合はVPN(※)接続による暗号化などを活用しましょう。
●従業員への情報発信・研修を実施する
企業を狙ったサイバー攻撃の手法には、メールを使用したものが多く見られます。URLをクリックさせて偽サイトに誘導する、マルウェアなどが仕込まれた添付ファイルをダウンロードさせるなど、さまざまな手口で攻撃が仕掛けられます。また、従業員のメール誤送信による情報漏洩にも注意が必要です。注意喚起を促す情報発信や情報リテラシー向上のための研修を行いましょう。
※2 VPN:「Virtual Private Network」の略で「仮想の専用線」の意味。インターネットをはじめとするネットワーク上に仮想的な専用ネットワークを構築して行う通信のこと。( 4 ) 個人ができる情報セキュリティ対策の具体例6選
情報セキュリティは企業だけでなく、自身も標的になる可能性を認識し、対策を取ることが重要です。個人でできる主な情報セキュリティ対策は以下の6点です。
個人ができる情報セキュリティ対策の具体例6選
個人ができる情報セキュリティ対策の具体例6選 |
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それぞれの対策例について詳しく紹介します。
●適切なパスワードを設定・管理する
パスワードを設定する際は、名前や誕生日などの推測されやすい言葉や数字は使わず、規則性のないものにしましょう。同じパスワードを複数のサイトやサービスなどで使用すると、万が一情報が流出してしまった場合、被害が拡大する恐れがあります。また、PCの周りなどに付箋で貼りつけたりせず、他人の目に触れないように保管します。パスワードを忘れたり失くしたりしないため、ツールの活用も有効です。
●許可されたデバイス以外は業務に使用しない
個人が所有するデバイスは、セキュリティソフトなどの装備が不十分な場合があります。許可されていない私物のPCなどを使用することをシャドーITといい、プライベートで閲覧したWebサイトや不正なメールから、マルウエアに感染するなどのリスクがあります。業務には会社が提供、もしくはアンチウイルスなど対策済みの許可を受けたPCのみを使用しましょう。
●安易にソフトウェアをインストールしない
インターネット上で配布されているフリーソフトは便利なものがある一方で、不正なプログラムやウイルスなどが埋め込まれている危険なものも存在します。安易にダウンロードやインストールをしてしまうとPCの動作不良やデータの破損・窃取などのトラブルが発生することもあります。特に業務に使用するPCへのインストールには、開発元などの安全性を確認し、ソフトウェアのインストール状況を社内で把握する必要があります。
●フィッシングメールに注意する
偽装したメールで不正なWebサイトに誘導し、個人情報やID・パスワード、クレジットカード情報などを窃取する詐欺の被害が増加しています。よくある件名や、実在の企業やサービス名を使用するなど巧妙な手口を用い、最終的には金銭的な被害が発生します。よく利用するサービスであっても安易にリンクをクリックせず、送信元や本文に不審な点がないかを確認しましょう。
●Webサイトの閲覧に注意する
本物と見分けのつかない偽サイトや、犯罪を目的とした悪意のあるWebサイトが存在しています。サイトにアクセスすることでマルウェアに感染したり、クリックしただけで多額の請求をされたりといったトラブルにあう危険性があります。怪しいと感じたら先には進まず、すぐに離脱しましょう。プロバイダなどが提供するフィルタリングサービスや、ブラウザのセキュリティ機能の使用も有効な対策となります。
●個人情報をデバイスに保存しない
PCなどに自分の氏名や生年月日、住所といった個人情報やID・パスワードなどのアカウント情報を保存するのは避けましょう。サイバー攻撃を受けるだけでなく、盗難や紛失などによって情報が流出するリスクは少なくありません。また、SNSなどから個人を特定し、トラブルになるケースも増えています。プライベートな情報や住所などを推測される画像などをアップしないように配慮することも重要です。
( 5 ) 情報セキュリティ対策における費用の考え方
現実問題として、情報セキュリティに対する投資は、企業にとって決して軽い負担ではありません。売上向上に直結しないからと、取り組みに消極的な経営者もいるでしょう。実際、欧米に比べて日本の経営層は情報セキュリティへの関心度が低く、情報セキュリティ責任者の設置なども遅れているようです。
しかし、「しっかり対策をしている」会社と「あまり力を入れていない」会社では、後々必ず差が出てきます。重視するのか、軽視するのか、それは大きな分かれ道です。
情報セキュリティ対策は、情報漏洩やサイバー攻撃を避けるために「仕方なくやるコスト」ではなく、事業を拡大し、信頼性を高めて会社を成長させるために「必要不可欠な投資」であると認識しましょう。

情報セキュリティ対策は成長戦略の一環
情報技術が日々刻々と進化する現代では、最新のテクノロジーを積極的に活用することは、長期的な成長戦略において欠かせません。それでこそ、企業は競争力や優位性を確保することができます。そして、それらは情報セキュリティ対策があってこそ成り立つものです。デジタル化が進めば進むほど、情報セキュリティ対策の重要度も上がっていきます。情報セキュリティ対策は、企業活動のためのインフラ整備といえるでしょう。つまり成長を促す前向きな投資なのです。
社会・地域と共存共栄するために不可欠
企業と企業、企業と人など、社会は今やインターネットによってありとあらゆるものがつながっています。そのうちの一要素である企業に、情報セキュリティ対策を講じる社会的な責任があることは、冒頭でも触れたとおりです。それはまた社会的な「使命」と言い換えられ、企業へのサイバー攻撃を防ぐことは社会全体の発展に寄与することにもつながります。それにより、未来へ向けて社会・地域とともに共存共栄していくことができるのです。
関係者との適切なコミュニケーションが大事
場合によっては、自社だけでなく、取引先やビジネスパートナー、委託先なども含めたサプライチェーンに対する情報セキュリティ対策が必要になってくるでしょう。また、リスクや対策に関する情報開示など、普段から関係者と適切なコミュニケーションをとっておくことも大事です。日ごろから情報セキュリティ対策についてオープンなコミュニケーションが行われていれば、いざというときにも速やかな情報公開や対応策が可能です。
( 6 ) 情報セキュリティ対策にはUTMの活用も有効
情報セキュリティリスクは多岐にわたるため、すべてに対応するにはコストやリソースが膨大になることが予想されます。しかし、先にも述べたようにこれが「インフラ」である以上、着手すべき優先事項であることは明らかです。
まずは、経営層だけでなく、従業員も交えてどのような対策が必要なのかを話し合ってみましょう。そのうえで問題点を共通認識として持ち、専門家に相談しながら計画的に対策を実行していくことをおすすめします。
複数のセキュリティ機能を一元化
近年、企業のマストアイテムとして注目されているのが、複数のセキュリティ機能をひとつのハードウェアに統合したUTM(統合脅威管理)です。現実問題として、それぞれの課題に個別に対応していたのでは、手間もコストもかかってしまいます。しかしUTMであれば1台でそれらの課題を解決することが可能です。
UTMには、以下のような機能が搭載されています。
- ファイアウォール
- Webフィルタリング
- アンチウイルス
- 侵入検知/防止
- メール誤送信防止
- 添付ファイルの自動暗号化
UTMの導入が有効と考えられる企業の例としては、取引先も含めて重要な情報を扱っている、専任のセキュリティ担当者がいない、いずれ情報セキュリティ関連の認証を取得したいなどが挙げられます。
UTMは会社の信用低下を防ぐだけでなく、セキュリティ状況の可視化や標的型攻撃メール訓練などによって従業員のセキュリティ意識も向上させてくれます。さらに、専任の担当者を必要としないサポート体制も整っているため、安心感が大きいのも特徴です。
( 7 ) まとめ
情報セキュリティ対策の重要性や企業と個人ができる情報セキュリティ対策の具体例、また対策に有効なツールであるUTMについて解説してきました。
「わが社はこれまでも大丈夫だったし、これからもきっと大丈夫だろう」と考えている経営者もいらっしゃるかもしれません。しかし猛スピードで進化する情報社会では、リスクはあらゆるところに潜んでいます。今はまだ何も起きていないだけで、これからも安全であるとは限りません。あらゆるものがインターネットでつながっている現在、情報セキュリティ対策は企業における重要課題であるとともに、必要不可欠な投資でもあります。
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